「レインボー柄の靴下」「袴田巌さん支援バッジ」の着用が“禁止”… 「法廷警察権」の違法行使を問う国賠訴訟が開始
「法廷警察権」の要件を満たさないとして、計330万円を請求
本訴訟では、原告らは福岡地裁・静岡地裁の各裁判長らの行為によって精神的苦痛を受けたとして、一人につき110万円、合計330万円の慰謝料を国に対し請求している。 請求の法的根拠は、裁判長らの行為は「法廷警察権」の要件を満たさないために違法である、という点。 裁判長は、法廷の秩序を維持するために、職員や警察官などを通じて強制力を行使する権利を持つ。しかし、その対象は「法廷における裁判所の職務の執行を妨げた者」か「不当な行状をする者」に限られている(裁判所法71条)。 原告らは、裁判所の職務執行を妨げようとする行為を何らしていない。また、靴下やパーカーを着用したりバッジを身に着けることは社会で日常的に行われており、「不当な行状」にはあたらない。したがって裁判長らによる法廷警察権の行使は要件を満たさず、違法であった、と原告側は主張する。 提訴後に開かれた記者会見では、加藤雄太郎弁護士が「本件では『傍聴の自由』と『弁護権』が、法廷警察権の拡大行使によって侵害された」と指摘した。 「これらの権利をないがしろにする行為は、個別の裁判のみならず、刑事司法のあり方をゆがめかねない。 憲法82条は『裁判の公開』を定めている。はたして、日本の司法は、市民が安心して足を運び、弁護士も萎縮せず弁護活動ができる環境になっているのだろうか。日本の司法制度のあり方を、広く問いたい」(加藤弁護士)
着用禁止の「基準」と「理由」を問う
法廷警察権については、傍聴席でメモを取れないことの違法性を争った通称「レペタ訴訟(法廷メモ訴訟)」など、これまでにも訴訟が提起されてきた。なお、レペタ訴訟の最高裁判決(最高裁平成元年(1989年)3月8日判決)により、現在では全国の裁判所の傍聴席でメモやスケッチができるようになった。 上記判決では、「公正かつ円滑な訴訟の運営が妨げられるおそれが生ずる場合」でない限り、メモを取る行為は傍聴人の自由に任せるべきと判示している。 亀石倫子弁護士(本件の主任弁護士)は今回の訴訟について、3つの異なる事案を同時に取り上げることにより、法廷警察権の行使にあたっての「基準」を問う点に意義があると説明した。 「たとえば、同性婚訴訟では、レインボーの衣服やアクセサリーを身に着けてくる人が多い。それらを隠すように指示するかどうかは、裁判官によって判断が異なっている。今回の訴訟を通じて、ある程度の基準を示してほしい」(亀石弁護士) 鈴木教授によると、靴下の柄を隠すよう命じられた際に、職員は理由を説明しなかったという。また、後日に東京地裁で同性婚訴訟を傍聴した際には、あえて福岡地裁の際と同じ柄の靴下を着用したが、裁判所から命令・指示はなかった。一方で、鈴木教授の同行者は、着用していたレインボー柄のピアスを外すように指示されたという。 「つまり、法廷警察権は『恣意的』に行使されている。裁判が公開される人と公開されない人とが、選択的にふるい分けられている。裁判の公開の原則に反しており、傍聴する権利に対して著しい萎縮効果をもたらす運用だ。 そもそも、特定の柄を身に着けてはならないというのなら、裁判所のホームページなどに、基準と理由を公開すべきだ。衣服は裁判所に行く前に自宅内で選んで着るのだから、裁判所に到着してから『特定の柄の着用は禁止』と指示されても困る」(鈴木教授) 鈴木教授は「そもそもレインボー柄の着用を禁止すべきではないことが大前提だが、それでも禁止するというのなら、“せめて”理由と基準を明らかにすべき」と補足。 日本では同性婚に反対する団体が訴訟を傍聴することはまれだ。したがって、たとえば賛成派と反対派が激しく争い、法廷に混乱が生じるという事態は、ほぼ起こり得ない。実際にはレインボー柄の着用を禁止できる理由は存在しないはずである、と鈴木教授は指摘した。