日本企業の収益を圧迫する「サービス=無料」の考え
人手不足解消に伴う人件費増加がサービス価格に転嫁され、企業段階ではサービス価格が上昇傾向にあります(日銀公表の企業向けサービス価格指数)。一方、消費者段階では総務省発表の消費者物価統計で、4月のサービス物価の前年比上昇率が遂に0%となるという出来事がありました。このことは消費者段階におけるサービス業の価格転嫁がなお厳しいことを浮き彫りにしています。 すなわち、現状は企業がコスト増を消費者の代わりに負担している格好で、日本語英語の意味するところのサービス(無料)に近い状態にあるといっても良いでしょう。今後は労働需給が一段と引き締まる下で消費者段階にも価格転嫁の流れが波及してくるとみていますが、その程度は緩慢なものになる可能性があります。(解説:第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一)
サービス物価の上昇率の鈍さが日本企業の収益を圧迫している可能性
このことは日本企業の収益を圧迫する可能性があり注意が必要です。日本企業は欧米に比べてROE(株主資本利益率)が低いことが知られていますが、ここでROEをデュポン分解という手法で分析すると、このサービス物価の上昇率の鈍さ、すなわち価格転嫁の難しさが日本企業の収益を圧迫している可能性が浮かび上がります。 デュポン分解とはROEを「売上高利益率」と「総資産回転率」と「財務レバレッジ」に分解したものです。数値の詳細は割愛しますが、この3つの項目を日米で比較すると、日本企業が大きく劣っているのは売上高利益率です。その水準は米国企業のおよそ半分程度であり、この部分でROE格差の大部分が説明可能性です(通常は純利益を分子にとりますが、法人税減税による影響を除去するためここでは営業利益率を図示しました)。
日本企業の収益力の弱さは、米国企業に比べて売上高利益率が低いことにその主因があると指摘しましたが、ここで日米のサービス物価に目を向けると、売上高利益率と同様に格差が認められます。米国のサービス物価が2%超の領域で安定しているのに対して、日本のそれは0%近傍で粘着的です。筆者は、この日米のサービス物価上昇率の格差が、日米の売上高利益率の格差に関係していると考えます。要するに、日本ではサービスの価格転嫁が難しいため売上高利益率が低く、その結果としてROEが上がっていないという可能性が指摘できるわけです。 以上みてきたように、日本のサービス物価上昇率の鈍さは、日本が(1)長期にわたるデフレを経験したこと、(2)恒常的にROEが低いことに密接に関係しているように思えます。サービス物価がプラス圏を回復し、上昇基調に回帰するか注目したいところです。 (第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一)
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