あえて偏らせてみた!監督賞は女性限定で選定「女性記者映画賞」で見えてくる根強い問題
ライターの渥美志保さんを始めとする「映キャン!」(2020年に設立した男女平等をテーマに映画を論じる映画ジャーナリスト4人の会)メンバーである朝日新聞の映画記者・石飛徳樹さん、映画ジャーナリストの平辻哲也さんに、そんな話を持ちかけたのは、コロナが明けてすぐの2022年のことでした。その時に感じていたのは、いくつかの映画賞の審査員をする中で、男性の審査員が全体の70~80%を占める状況となると、映画の趣向や監督への着眼点に違いが生じ、話し合いが出来たとしても票数で結果へと結びつかない現実の壁でした。それについて様々な意見が出ることを承知の上で言うならば、刺激的なショットがある作品や男性が多く登場する作品が好まれる傾向が強く、そうなると日本映画の実写で見ても女性監督の割合が映画業界全体の11%(2023年12/12 Japanese Film Projectが発表した2022年度の比率)という不利な状況の上、描く作品にも男性優位が生まれます。 【写真】イベントに出席した筆者とMEGUMIさん ■ あえて偏らせることで女性監督にスポットが当たる 視覚での刺激という点に気を取られすぎて軽んじられる死や性の描写。この点についてもっと話し合うべきでは、という思いが湧き上がっていた年でもあり、映画賞の結果がその後の監督起用や描かれる映画のテーマにも影響を及ぼすことから、審査員の男女比も日本の映画界に一つの変化をもたらすのではと考えていました。 そんな中、もしも女性審査員だけで作品を選んだら何が選ばれるのか、そもそも映画監督に女性が少ないのだから、女性監督だけに特化して監督賞を選べば女性監督が世間に知られるのではないか、そう「映キャン!」メンバーからの発案で、女性30人強の審査員に声をかけ、監督賞は女性からという偏った映画賞が生まれたのです。 ■ 映画を知ってもらうには映画館の外 なにぶん、予算もなく手探りで始めた映画賞はネットを駆使して投票を募り、受賞者には動画コメントを貰えないかと相談する有志レベル。それでも私たちの想いに感銘した女優賞の菊地凛子さん(『658km、陽子の旅』)や男優賞に選ばれた役所広司さん(『PERFECT DAYS』)、そして早川千絵監督(『PLAN75』)ほか多くの受賞者がコメントを撮影し送ってくれたのでした。 しかしまだまだ世間的には無名の映画賞。となれば、ゲストを呼んでイベント化することで映画以外の媒体にも記事化してもらえるのではないか、上映会をすれば女性監督達の作品をもっと知ってもらえると思い、知人に相談して行き着いたのが、毎年、司会をするトロント日本映画祭の日本上映も開催される日比谷シネマフェスティバルでの企画上映でした。このイベントの素晴らしいところは、都会の真ん中で野外無料上映、その前に監督とのトークショーをステージ上で行うというもの。ここで「女性記者映画賞」の受賞作品を上映出来たら、映画館に普段、足を運ばない多くの人の目にも触れる。そんな私の相談に快く乗って下さった東京ミッドタウン日比谷の皆さんには感謝しかありません。そして第一回「女性記者映画賞in 日比谷シネマフェスティバル」が開幕したのです。 ■ 全体の為に行動する女性像 しかも、日比谷シネマフェスティバルのオープニングを「女性記者映画賞」が飾ることになり、開幕に相応しいアンバサダーをと考え、真っ先にMEGUMIさんが浮かびました。というのも世界三大映画祭のひとつであるカンヌ国際映画祭で「JAPAN NIGHT」というパーティを現地で開催、日本と海外の映画人の交流の場を作ることにも尽力され、俳優はもちろんプロデューサーとしても映像業界で活躍する女性だったからです。 この企画に賛同してくださり、イベントは実現。10/11(金)には、MEGUMIさんも出演する、若き女性監督の苦悩をコミカルにドラマティックに描いた石井裕也監督の『愛にイナズマ』の上映前にトークショーにも登壇したのです。正直、何故、彼女が俳優業以外の仕事を、しかもカンヌ国際映画祭でパーティを開こうと思ったのか。MEGUMIの映画への思いはとても強いものではないか。そんな疑問を当日、ステージでぶつけてみたのですが、その答えは想像より上を行くものでした。 「2022年に初めてカンヌ国際映画祭に参加しました。その時にアメリカ、韓国などの各国が自国をあげてのパーティーを開催していたんです。そのパーティーは、自国と他国の映画人が会話をし、そこから映画を売買したり、もしくは『合作を作ろう』というお話や、何もなくても仲良くしようというような交流の場でたくさん開催されていました。でも日本だけ、そのようなパーティーを開催していなかったんです。世界にも日本映画ファンの方は居ますが、残念ながら日本には『世界に日本映画をアピールしていこう』という強い気持ちを持っている人が少ないという現実を突き付けられたように感じました。私は映画界に20何年間お世話になっていますし、今も芸能界でお世話になっています。そして『海外で仕事をしたい』『海外に良い作品を届けたい』という想いを以前から持っていたので、今回、思い切って行動しました。『私が主催するのはどうなんだろう?』とも思いましたが、結果的に本当に1000人ぐらいの方が来て下さって、合作の話が生まれたり、出資の話が生まれたりと色々な夢が生まれました。『やって良かった』と思っていますし、自分のライフワークにして、できる限り続けたいです」 ■ 世界最下位の自己肯定感を持つ日本女性 芸能生活25年のMEGUMIさんは、「心に効く美容」や「キレイはこれでつくります」など美容本のもちろん、これまでにカフェの経営、短編映画、配信ドラマやテレビドラマのプロデュースなど多岐に渡り活動をしています。来年は長編映画のプロデュースを二作準備しているそうです。では実際、日本でのプロデューサーという肩書きがつく職種の男女比はどうなのか。先のJFP(Japanese Film Projectが2023年に発表した2022年度の比率)では女性比率が12%という結果の通り、男性が多数占めているのが事実。このように意思決定の点で性別に偏りが生まれると、女性に対してアンコンシャス・バイアスが生まれ、女性の描き方やテーマ性にも偏りが生まれかねないのです。 「『日本人女性の自己肯定感は世界で最下位』というニュースを見たんです。日本は四季もあり、美味しい食べ物ある安全な国なのに「私なんか」と思っている人がすごく多いということに衝撃を受けました。自分が作るものに関しては女性にエールを送る、女性のアンセム(応援歌)作品というか、そういう作品を作ることを決めています。なので、この新作二作もストーリーは違いますが、どちらも女性にエールを送る作品です」 個人的に思い当たることで言えば、昭和は特に「女性は慎ましやかに」と言われていた時代であり、公の場には男性が立つのが当たり前でした。今は時代も変わり、若い女性達も発言する機会が増えてきてはいるものの、社会全体を見れば、意見を求められる場に女性があまり呼ばれていない現実や責任を負うポジションに着けていないことから、「誰かの役に立つ」という実感が湧いていないのも原因かもしれません。 ■ 彼女たちが味わった感情を女性たちに投影 今回の「女性記者映画賞」イベントでの受賞作上映は3作品。まず荻上直子監督の「波紋」は、荻上監督自身が働く母親であり専業主婦への興味から、自分勝手な夫への復讐と共に、内に秘めた怒りをオリジナル脚本で撮っています。次に川和田恵真監督の「マイスモルランド」は、自身がイギリス人の父と日本人の母を持つことから、移民についての差別やルーツについて書いた脚本です。そして主演のケリー・オサヴァン脚本の「セイント・フランシス」は、性別や年齢による世間のアンコンシャス・バイアスに疑問を抱き、脚本を書き上げた作品です。共通するのは監督や主演自らのオリジナル脚本による企画の映画化。「女性ならではの作風」という言葉はナンセンスと思うのですが、彼女たちが日常で味わった感情から生まれた映画であることは間違いなく、どれも主人公が女性という共通点がありました。 ■ 男性社会の厄介さに悩むのは男性も同じ 自分自身はというと、自身が立ち上げた映画賞(女性記者映画賞、映キャン!賞)以外に女性であっても4つの映画賞の審査員を務めている身であり、声がけの理由のひとつには「女性の目を入れないと」という声もありました。その結果、映画賞の中に入ってみるといくつかの賞では男性社会特有の“付き合いで”や“お願いされたから”という審査員選定も聞いています。確かに意思決定を持つ者が意識的に「性別」を見ないと、話しやすい、もしくは付き合いのある声の大きな同性へ声がけし、仕事へと繋がっていく可能性は高い。そんな社会構造が要因であると共に、「女性が子育てをするのが当たり前」という思い込みが根強く残っていることから、子供を産んだら意思決定を持つポジションに着く前に、部署異動が起こる場合も多いのが現実です。 ■ “子育てはみんなで行う”に変換する社会へ 今回のイベントで、子供がいる荻上直子監督が口にした言葉が印象的でした。 「子どもを産み監督を続けるには、子育てを手伝ってくれる夫を探すこと」 言葉で聞くと簡単ですが、これには社会全体の意識改革が必要です。というのも「男は家族を養い、女は家を守る」という古い思想が社会全体にまだ根付いています。確かに最近は抱っこ紐を着けた男性を見かけるようになりました。更には男性の育休制度が導入されましたが、女性と同じく原則一年間という内容です。ただし子育ては一年で手が離れる環境になるわけがなく、現実的には小学3年生前後から留守番をさせる家庭が日本では多い状況です。子育てを手伝うと言っても休日だけ手伝うでは、妻の平日は送り迎えも含め、時短でしか働けない。そう考えると監督業など長期間、家を留守にする場合もあり得る職業では、皆で子育てが出来る環境を整えないとすぐに復帰することは難しい。これも問題のひとつとなって、ベテラン女性監督が少ない現状が生まれています。こうなると社会全体での取り組みが大事です。託児所やベビーシッターを気軽に利用できるシステムなど、企業や組織が国と共に取り組んでいくことも今後考えて行く必要があります。そして何より、「子育ては皆でおこなう」に意識改革することが一番重要だと気付かされるのです。 (映画コメンテイター・伊藤さとり)
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