「仕事では頭を下げられても、家族には謝れない人」の複雑な心理
年齢を重ねるにつれて、素直に謝ることが難しくなる人は少なくありません。家族には謝れないのに、仕事では頭を下げられる...という人も、なかにはいるでしょう。人間にとって「謝罪すること」が難しい本当の理由について、書籍『「ごめんなさい」の練習』より紹介します。 上司による「害のある」フィードバックの特徴 ※本稿は、林健太郎著『「ごめんなさい」の練習』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
謝ることは、人間の本能にさからう行為
なぜ私たちは、すかさず「ごめんなさい」を言えないのでしょうか。 答えは簡単、言いたくないからです。 人間は、そもそも「ごめんなさい」を言いたくない生き物だといえます。なぜなら、「ごめんなさい」が必要な場面というのは、相手から怒りや不満をぶつけられる状況であって、人間にとって1つの危機だからです。 「責められている! だから反論しなきゃ」と考えるのは、危機に直面して自分を守ろうとする、生き物としての自然な反応です。 逆にいうと、危機に直面して立ちどまるのは人間の本能にさからう行為で、とてもストレス度の高いことだといえます。それでも人に謝るのは、人間が社会的な生き物だからです。小さな子どもは、「ごめんなさい」とは無縁の自我だけの存在です。「自分は悪くない」という本能に忠実に従って生きています。 ですが、保育園や幼稚園、小学校などの社会に参加していくなかで、自分以外の存在を意識するようになり、ときに「相手を怒らせたかな」「悲しませたかな」と動揺しながら「謝ったほうがいいのかな。でも嫌だな」という葛藤を味わいます。そうやって、そのつど失敗しながら学習していきます。 つまり、「ごめんなさい」というのは、子どもから大人へと成長・成熟するにつれて獲得していくコミュニケーションの技術といえます。
歳をとると素直に謝れなくなる理由
基本的には、人生経験を重ねるにつれて発達していく技術ですが、一度獲得した「ごめんなさい」の技術を手放してしまう人も一定数います。あなたのまわりにも、「歳をとるほど頑固になって謝れなくなる人」「権力や社会的地位を手にして急に高圧的になった人」「あきらかに自分が悪いのに絶対に謝らない上司」などがいませんか。 そうなってしまうのは、たとえば、「謝らなくても、なんとかなった」「相手が先に謝ってくれたから、自分は黙っていてもいい」「謝ると、かえって面倒なことになる」といった経験をして、そこからよくない方向に学習してしまったからです。 人間は、ついラクな方向へと流れがちです。「ごめんなさい」の技術も、努力しつづけないと「衰える」のです。