障害者の雇用促進 「業務の切り出し」で仕事を生み出す取り組みとは?…働く人は10年で1.5倍 課題は定着化
障害者の働く場は広がりつつある一方、「担ってもらう仕事がない」などとして、雇用をためらう企業はいまだに多い。こうした中、一つの仕事を細分化し、障害者に任せられる部分を抽出する「業務の切り出し」によって、仕事を生み出す取り組みが行われている。(板垣茂良) 【図解】障害者の雇用を生む「業務の切り出し」のイメージ
「ザクッ、ザクッ」。8月上旬、福岡市の水産加工会社「福岡丸福水産」の工場では、職人たちが冷凍魚を同じ厚さに次々とカットする包丁の音が響いていた。同じフロアでは、障害者約10人が商品を箱詰めしたり、機械でサケを切り身にしたりする作業を行っていた。 全従業員33人のうち7人は、障害者手帳を持つ正社員やパート従業員だ。このほかに約15人の障害者が就労訓練のため工場に通う。 多くの障害者が働くことを可能にしたのは、業務の切り出しだ。2021年、障害者の就労支援や教育を手がける「ビーエイトシーグループ」(福岡市)が買収し、冷凍魚の切り身やフライなどの製造工程を一から見直した。当時、人手不足による売り上げの減少で事業の継続が危ぶまれていた。 見直しでは、職人らに自身の作業を「技術や経験が必要で職人が行う」「教えることで誰もが担える」「誰もがすぐ担える」の三つに分類してもらった。魚のひれを取る作業や原材料の搬入、商品の箱詰めなどは「教えることで誰もが担える」に分類した上で、各作業の工程について写真を多用した説明書を用意し、主に障害者に任せることにした。 雇用した障害者については「物を落としていないか確認するといった行動がある」「気分の変動が激しい」など、一人ひとりの特性と同僚の対応方法も社内で共有した。
魚の下処理などを担う精神障害の男性(43)は就労訓練を経て、22年12月、パート従業員として採用された。1日5時間半で週5日働き、月収は約12万円。「体調不良で休むこともあったが、責任のある仕事でやりがいがある。ゆくゆくは職人の仕事も任せてもらえるようになりたい」と意欲的だ。 人手不足の解消で、職人が切り身の作業に専念できるようになり、受注を増やせた。23年の同社の売り上げは5億4000万円と、買収前の1・5倍に伸びた。残業時間や商品へのクレーム件数も大幅に減ったという。 ビーエイトシーグループは福岡労働局とともに、人手不足に悩む地元企業に対し、障害者雇用のノウハウを伝える事業にも取り組む。現在、2社を支援する。同社の島野広紀社長(52)は「障害者を戦力として雇う会社を増やしていきたい」と話す。