STATION Aiグランドオープン、アジア最大のスタートアップエコシステムを目指す
2024年10月31日、日本最大級のオープンイノベーション拠点「STATION Ai」がグランドオープンし、10月31日から11月2日にかけての3日間、オープニングイベントが開催された。本記事では10月31日に実施された報道機関向けのオープニングセレモニーと、仮想通貨プロジェクト「ワールドコイン(Worldcoin)」に関するセッションをレポートする。 【もっと写真を見る】
2024年10月31日、日本最大級のオープンイノベーション拠点「STATION Ai」がグランドオープンし、10月31日から11月2日にかけての3日間、オープニングイベントが開催された。本記事では10月31日に実施された報道機関向けのオープニングセレモニーと、仮想通貨プロジェクト「ワールドコイン(Worldcoin)」に関するセッションをレポートする。 オープンイノベーションに注力し、アジア最大のスタートアップエコシステムを目指す 日本最大のスタートアップ支援、オープンイノベーション拠点「STATION Ai」が愛知県名古屋市の舞鶴に開業した。延床面積2万300平メートル、地上7階建てで、オフィススペースを含む「会員専用ゾーン」と飲食店やイベントスペース、宿泊施設などの「一般開放ゾーン」で構成される。10月31日のグランドオープン時点でスタートアップ約500社、パートナー企業約200社が会員として所属し、オープンイノベーションに注力していると発表された。 報道機関と招待客向けにオープニングセレモニーでの開会宣言では、愛知県知事 大村秀章氏が「愛知県は今から6年前に『愛知スタートアップ戦略』を掲げ、産官学で取り組んできました。その中核的な施設がこのSTATION Aiです。「Statin Ai」に先駆けて2020年に開設した「PRE-STATION Ai」はわずか9社だったのが、今回は500社。スタートアップとパートナー企業が同じ建物内で毎日マッチアップすることで、日本のイノベーションを盛り上げていきたい」と思いを述べた。 ソフトバンク株式会社代表取締役社長執行役員兼 CEO 宮川潤一氏は、「以前の愛知県はスタートアップに厳しい地域で、私自身も26 歳で起業していろいろと苦労しました。スタートアップが育つ環境には、地元の企業、金融機関、自治体のみんなの協力が大事です。STATION Aiから次世代の日本を引っ張ってくれるスタートアップが生まれてくることを期待しています」と語った。 STATION Ai株式会社 代表取締役社長 兼 CEO 佐橋宏隆氏は、「スタートアップが大きく成長するうえで愛知に集積する製造業のアセットやノウハウは不可欠なもの。また、既存産業のアップデートを図るうえでもスタートアップが欠かせない存在」と話す。また、「STATION Ai」はその名のとおり、フランスのパリにある世界最大級のスタートアップ支援拠点「STATION F」をオマージュしていることから、「STATION Fには年間1万人の応募があり、世界中の大企業が協業を求めて集まると聞いている。STATION Aiも協業のために世界から企業が集まる『アジアにおけるオープンイノベーションの聖地』と呼ばれる存在を目指していきたい」と語った。 11月1日、2日は、一般向けにオープンイベントを開催。著名人によるスタートアップやオープンイノベーションに関する各種セッション、スタートアップピッチのほか、プログラミング教室などの体験イベントや施設見学ツアーが行われ、多くの来場者で賑わった。 Worldcoinはスタートアップの世界進出の足掛かりになるか 11月1日に実施されたトークセッション「チャットGPTの生みの親サム・アルトマンのWorldcoinプロジェクトは、UBI(ユニバーサルベーシックインカム)を実現できるか?」では、Worldcoinプロジェクトの主要企業であるTools for Humanity日本代表 牧野友衛氏によるWorldcoinの解説と、スタートアップが同プロジェクトに参加する意義について議論が交わされた。 Worldcoinプロジェクトは、「世界最大のIDと金融ネットワークを構築し、世界中の人々にその所有権を提供すること」を掲げている。同プロジェクトは、OpenAIの創設者であるサム・アルトマンがAIの普及により仕事を失う人が増える未来を見据え、ユニバーサル・ベーシックインカム(UBI)のインフラを整える必要性を感じたことのがきっかけだそう。UBIを実現するためには、全員に重複なくお金を配るためのIDと口座が不可欠だ。しかし、世界的には口座の所有率は76%に留まっており、特に途上国では出生届が不十分でIDすらないことも少なくない。このため、Worldcoinプロジェクトは仮想通貨のウォレットを用いて、最も普及しやすくコスト効率の良い方法でUBIを配ることを目指しているという。 Worldは、個人を証明する「World ID」、ウォレットアプリの「World App」、認証デバイスの「Orb(オーブ)」、デジタル通貨である「World coin」、ブロックチェーンネットワークの「World Chain」で構成される。具体的には、World Appで仮のIDを取得し、Orbで虹彩認証と生体認証を行うことで正式なWorld IDとして使えるようになる仕組み。World IDは、それ自体には個人情報を含まず、人間であることを証明できる唯一のIDであることから、コミュニケーションツールの「Discord」や「Yay!」のログイン認証に使われているほか、限定商品やチケット販売への利用も始まっているそうだ。 現在は世界14カ国で認証が可能で、ユーザー数は約1500万人、うち認証ユーザーが約650万人に達しているとのこと。 「世界中の人々にその所有権を提供する」という理念を実現するため、分散型のインフラを前提としていることも特徴だ。Tools for Humanityは、同プロジェクトのソフトウェア、カードウェアの開発を担う会社だが、基本的にオープンソース化されており、最終的にはIDとウォレットが自立して機能することを目指しているという。そのため、プロジェクトのゴールは、同社がなくなることだそう。マネタイズを目的としていないにもかかわらず、VCや個人投資家から2.5億ドルを調達しているのもこのプロジェクトの面白さだ。 現在はWorld Network社とTools for Humanityに設定されているサーバーについても、今後は各国の大学や研究機関に分散化を進めているそうだ。 デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社の前田氏は、実際にWorld IDを使った印象として「非常に使い勝手がいい。コロナ禍の給付金なども確実に一人に届けられて、不正受給も防げる」と政府や自治体への活用に期待を寄せる。 他方で福田氏は、「Worldcoinは、スタートアップが世界に出ていくためのきっかけになれるのか」と質問。それに対して牧野氏は、「株式会社ナナメウエの「Yey!」のように早い段階で参入すると、グローバルでの存在感も上がる。僕らのチームも成功事例として世界に紹介する機会もできる。また海外のスタートアップと組むのもお勧めです」と答えた。 最後に来場者へのメッセージとして、福田氏は「米国のメジャーリーグは、常に新しい技術を取り入れて進化している。日本の企業も現状維持を良しとせず、STATION Aiで出会った人と一緒に、世界を目指していただきたい」とコメント。 前田氏は、「日本に留まらず、スタートアップ精神を世界へ広げていってほしい。Worldcoinプロジェクトに負けないくらい、自身の精神を世界に届けていただけるとうれしい」と来場者へエールを贈った。 牧野氏は、「25年ぐらいインターネットの仕事をしていて、もうイノベーションは起こらないかと思っていたが、またアメリカからおもしろいプロジェクトが始まり、それにお金を出す人たちがいる。けっこう夢のある話なので、継続して日本でもいろんなものをやっていきたい。一緒に頑張りましょう」と語った。 文● 松下典子 編集●ASCII STARTUP