危険運転の適用に道開く「実質的危険」とは 大分194キロ事故判決、大きな先例となるか
■東京高裁の判断枠組みを応用
一方、こうした大分地裁判決は令和4年の東京高裁判決を参照する形で示された。
車がカーブを曲がり切れず、対向車線にはみ出した事故で、物理的にカーブを曲がることが不可能な「限界旋回速度」以下でも、危険運転を適用できるかが争点に。東京高裁は限界旋回速度以下でも制御困難に当たりうると認定し、危険運転を適用した。今回の大分地裁判決は、この東京高裁の判断枠組みを直線道路の事故に取り入れた形だ。
東京都立大の星周一郎教授(刑事法)は大分地裁判決について「法解釈上、蛇行やスピンが生じる『直前の状態』でも危険運転の適用は可能といわれてきたが、実際に適用されたのは知る限り初めて。現場が完全な直線道路で認めたのは一歩踏み込んだ判断といえる」と分析する。
「非常に画期的」
「制御困難な高速度」を巡っては、津市のケース以外でも100キロを超える死亡事故で「過失」と判断された事例があり、かねて一般感覚との乖離(かいり)が指摘されてきた。
危険運転致死傷罪の要件の在り方を議論する法務省の有識者検討会は11月下旬、高速度の数値基準の設定などを盛り込んだ報告書をまとめ、法改正に向けた動きが本格化している。
宇都宮市の国道で令和5年、時速160キロ超の車がバイクに追突した事故も今後、危険運転致死罪で審理される。遺族の代理人を務める高橋正人弁護士(第二東京弁護士会)は大分地裁判決を「非常に画期的で大きな先例。直線道路での追突、(右折車と直進車の)『右直事故』で同罪が成立しやすくなる」と評価した。
大分194キロ死亡事故
大分市の一般道で令和3年2月9日午後11時ごろ、当時19歳だった元少年(23)が運転する乗用車が法定速度の3倍を超える時速194キロで交差点に進入し、右折車と衝突。会社員の小柳憲さん=当時(50)=が死亡した。大分地検はいったん自動車運転処罰法違反の過失致死罪で男を在宅起訴。遺族が同法違反の危険運転致死罪の適用を求めて署名活動を行い、その後同罪への訴因変更が認められた。大分地裁は11月28日、同罪の成立を認め、懲役8年(求刑懲役12年)を言い渡した。