“国立決戦”制してパリへの切符獲得! 試練のアウェーから中3日、なでしこジャパンは何を変えたのか?
重圧を楽しんだ司令塔「楽しまないともったいない」
開催地決定のドタバタや準備期間の短さなど、予期せぬ試練にも苦しめられた今回のアジア最終予選。だが、初戦から短期間での修正力や、国立競技場に集まった2万人を超える観客の声援を力に変え、パリへのチケットをつかんだ。大きな重圧の中でも緊張で顔がこわばる選手は少なく、楽しんでいる姿や、その雰囲気が生む一体感が感じられた。 歓喜の声が飛び交うSNS上では、長谷川がノールックパスで味方にアイコンタクトを送るシーンが拡散され、「視野の広さがすごい」「天才!」「プレーを楽しんでいて最高」と話題に。軽やかなステップと技巧が光るファンタジスタのプレーは、どの場面を切り取っても楽しそうだ。初戦前に大舞台で緊張しない理由を聞いた時、長谷川はこんなふうに話していた。 「サッカーをやっている理由を考えた時に、やっぱり楽しくてやっていますから。もちろん、女子サッカーの(未来の)ためでもありますけど、自分自身のためでもあるので楽しまないともったいないし、緊張感も楽しみたいと思っています」 前半最大ピンチのシーンで日本を救うセーブを見せた山下は、「三笘(薫)の1ミリ」ならぬ「山下の1ミリ」がXでトレンド入り。「諦めない姿勢とステップがすごい」「GKって本当にかっこいい」と、唯一ピッチ内で手を使える特殊なポジションに光を当てた。その瞬間がスローモーションのように感じたという山下は、「(1ミリではなくて)10センチぐらいだったと思います。どんな形でもなでしこが注目されるのは一番嬉しいです」と微笑んだ。 苦しい戦いだったが、ハイレベルで、しびれるような激闘だった。試合後、悔しさの中で日本にエールを送ってくれた北朝鮮サポーターにも心から敬意を表したい。 試合後の会見で改めて目標を聞かれた池田監督は、「世界一、金メダルを目指してさらに成長したい」と宣言。オリンピックは出場枠が「12」と少なく、ライバルは厳選された強豪国ばかりだ。アジア最終予選のもう1試合は、オーストラリアがウズベキスタンを10-0で下し、2戦合計13-0でパリへの切符をつかんだ。北中米カリブ海はアメリカとカナダ、オセアニアはニュージーランド、南米はコロンビアが出場権を獲得。熾烈を極めたヨーロッパ予選は、開催国フランスの他、スペインとドイツが出場権を獲得した。 パリ五輪は、メンバー枠が今回の「22」から「18」へと絞られる。上野や北川のように新たにチャンスをつかんだ選手もいて、メンバー選考のサバイバルは激しくなるだろう。選手たちは再会を誓い、海外組は翌朝の羽田発便で、国内組も3月2日のWEリーグ再開に向けて各クラブへと戻っていった。 3月、それぞれの場所で新たな挑戦が始まろうとしている。 <了>
文=松原渓[REAL SPORTS編集部]