マスク氏、トランプ氏陣営に巨額寄付 透けるしたたかさ 要職起用なら〝利益相反〟懸念も
米起業家のイーロン・マスク氏が米大統領選で共和党候補のトランプ前大統領に巨額の寄付金を投じ、強力に後押しをしている。マスク氏はトランプ氏の応援演説にも積極的で、オーナーを務めるX(旧ツイッター)でも支持する発信を繰り返している。価値観の近いトランプ氏に肩入れし、ビジネスでの規制緩和を求めるしたたかかさも透けてみえる。トランプ氏は勝利すればマスク氏を政府の要職に起用したい考えも示しているが、マスク氏が関わる産業分野の規制に携われば、経営者の立場との〝利益相反〟となる懸念も否定できない。 【写真】トランプ前大統領の選挙集会で演説するイーロン・マスク氏 トランプ氏寄りの特別政治活動委員会(スーパーPAC)「アメリカPAC」に対し、マスク氏が10月中に4360万ドル(約67億円)を献金したことが米連邦選挙委員会(FEC)の資料で明らかになった。マスク氏による同団体への献金総額は1億1860万ドル(約181億円)に達した。マスク氏は7月のトランプ氏暗殺未遂事件後に前大統領への支持を正式に表明している。 電気自動車(EV)メーカーのテスラや宇宙開発企業スペースXなどを率いるマスク氏は南アフリカ出身で、米国のほかに、カナダの国籍も持つが、不法移民を非難するなど、トランプ氏の考えを支持している。今年7月には、カリフォルニア州がトランスジェンダーの子供をめぐる新法を成立させたことに「我慢の限界」と反発し、X(旧ツイッター)と宇宙企業スペースXの本社をカリフォルニア州からテキサス州に移転すると発表した。LGBTQなどの性的少数者について、トランスジェンダーのスポーツ選手が女子競技に参加することを「ばかげている」と発言したトランプ氏と考え方が近いようだ。 ■過去にはトランプ氏批判も ただ、マスク氏のトランプ氏支持は、保守的な価値観だけではなく、ビジネス的な恩恵も視野に入れたものだ。マスク氏は2022年、20年の大統領選で不正があったと主張するトランプ氏を批判。24年の大統領選を巡っては当初は共和党の若手、デサンティス・フロリダ州知事の支持を表明していた。しかし、今年7月にトランプ氏が共和党候補として指名されるとトランプ氏に接近。両氏は8月、対談をXで配信し、民主党候補のハリス副大統領批判を展開した。 自動運転に関連する規制の緩和やロケットの打ち上げ許可など、マスク氏のビジネスは政府当局との関係が深い。マスク氏は「米国は無数の小さな糸で縛り付けられた巨人。トランプ氏なら束縛を断ち切ることができる」と集会でトランプ氏を持ち上げ、規制緩和への期待をにじませる。トランプ氏も、マスク氏を閣僚など政府の要職に起用したい考えを度々示唆し、政府支出の削減を任せると表明したことも。9月には、政府要職起用検討に関するワシントン・ポスト紙の記事に、マスク氏はXで「待ちきれない」と応じた。
マスク氏との接近が奏功したのか、気候変動対策に後ろ向きで、EV推進にも反対していたトランプ氏は態度を軟化させた。人工知能(AI)や暗号資産、宇宙開発に関する規制緩和にも積極的なトランプ氏が勝利すればマスク氏にとって追い風になるのは確かだ。もっとも、強烈な個性のマスク氏が、規制する方とされる側を兼務するようなことになれば、米国の産業政策に影を落としかねない。(高木克聡)