「オーナーがパソコン分からない」から社員も使わない?/人気とんかつ店、会社ルールを刷新して成長~井筒まい泉後編
「とんかつ」「かつサンド」の代表的ブランド「井筒まい泉」(東京都渋谷区)は、専業主婦が立ち上げた人気とんかつ店でしたが、2008年にサントリーがM&Aで買収しました。社長に就任したサントリー出身の岡本猛氏は、オーナーに支配された「家業」から「企業」に会社を成長させていきます。人事制度の刷新などで従業員のやる気と信頼を生み出し、売上げを大幅に伸ばした「事業承継」から成功の秘訣を紹介します。 【動画】ヒレかつサンド、1日3万食 社長が語る成功の秘訣
◆謎の理由「オーナーが分からないからパソコンに手を出さない」
創業者で前オーナーの小出千代子氏に「盲従」する形で運営されてきた「まい泉」は、売上70億という数字を出していたものの、会社の体質は「家業」の延長でした。事業承継後、岡本氏は変革に取り組みますが、40年間で作られた歪みを正すのは、大変な仕事だったといいます。 まず、社員が共有できる分かりやすい目標が大事だと考え、「家業から企業へ」をスローガンに掲げました。 当時のまい泉は、デジタル環境の改革も必要でした。 インターネットにつながっていないパソコンが1台あるだけで、70億の売上は、すべて電話とファックスで処理されていたのです。 パソコンを使わない理由は「オーナー自身が分からないものには手を出さない」という、驚くべきものでした。 「社会に遅れる一つの原因ですよね。 売上70億の会社ですから、『家業』の責任範囲を超えています。 社会的な立場としても、お客様に対しても、ネット対応のような現代社会に必須なものごとをきちんとできる会社にしていく。 それが『企業』だと思うんです」と、岡本氏は語ります。
◆経費無視、店長は「売上げだけ上げる」では…
承継前、現場の各店舗の店長にはひたすら「売上を上げる」ことだけが指示されていました。 岡本氏は「店舗の店長というのは本来、売上と、利益の責任があるんです。 つまり、人件費など間の経費のことも全部分かっていなければいけないはずですね。 ところがそういうことを何も知らされていなかったんです」と驚きを振り返ります。 岡本氏は、月の損益計算書を各店舗ごとに明示し、売上はあっても赤字である点などを、店長が把握できるようにしました。 結果、新入社員の店長と最古参のパートの人を比べると、パートの方が人件費が高い、といった問題も見えてきました。 「もちろん、ただ是正するんじゃなくて、店長になったらこれだけの責任があり、クリアするからこれだけの給料もらえる、と結びつけていかなければいけないんです」