「株価請負人」と呼ばれた東証OB、5000万円の不正利益か…上場企業を渡り歩く
堀内被告も「東証出身」の肩書や知識、経験を評価され、転職先では幹部クラスに登用された。ただ、被告が勤務した会社の関係者によると、部下に威圧的な態度で接したり、社内規定に反する無届けの株取引をしたりすることも。2015年から広報・IR部長として勤務した金融サービス会社では、同社株のインサイダー取引をしたとして、金融庁から約430万円の課徴金納付命令を受けていた。
エー社株を巡る事件で、証券取引等監視委員会が強制調査に入ったのは昨年7月。その直後に被告は退社したが、すぐに別の上場企業に採用され、広報・IR担当の執行役員に納まった。この企業は被告を逮捕当日に解任したものの、同社関係者は「実績を評価して入社してもらった。行政処分を受けていたことを知っていれば採用しなかったが……」と悔やんだ。
再発防止は
堀内被告は逮捕前の取材に、ベトナム工場の情報について「公表の2週間ほど前には知っていたが、建設許可が下りていない段階だったので重要事実には当たらない」と説明。株取引で利益が出たことは認めつつ、「インサイダー取引はしていない」と主張していた。
今回の事態は市場に動揺をもたらしている。エー社株を取引していた個人投資家の男性は「IRの責任者が自らインサイダー取引をするとは、あり得ないことだ」と憤った。
専修大法科大学院の松岡啓祐教授(金商法)は、「現在の行政処分は課徴金額が低く、処分者も基本的に匿名公表で、不正防止の機能を果たすのに十分とは言えない。課徴金引き上げや一定の役職者が行政処分を受けた場合の実名公表などを検討し、市場の信頼を維持する必要がある」と指摘している。
◆IR(Investor Relations)=企業が株主や投資家に向けて、財務状況や業績など投資判断に必要な情報を提供する活動を指す。企業の資金集めにおいて、市場で調達する「直接金融」の比重が増す中、上場企業にとって生命線となっている。