「とにかく真面目。いや真面目すぎる」石川真佑を“プラス思考”に変える女子バレー眞鍋政義監督の試み「負のオーラを払拭してやろう」
プラス思考の選手をいかに多く入れるか
逆に言えば、大事な試合ではプラス思考の選手を一人でも多くコートに入れるのが重要だ。第1章で紹介した江畑幸子などは典型的なプラス思考タイプ。メンタルコーチがアンケートを使って調べてみたところ、過去の代表メンバーではやはり江畑が一番プラス思考だった。 ちなみに、私もアンケートを受けてみたら、超プラス思考だということが判明した。 たとえば、お祭りで「じゃんけんで勝った人にハワイ旅行をプレゼント」という企画 があったとする。勝ち残ってハワイ旅行をゲットしたら、私は「俺って、なんでこん なにツイてるんだ!」と喜ぶ。逆に負けたらどう思うか? 「こんなところで運を使わずにすんでよかったあ!」と喜ぶ。 バレーをやるときも、そういうふうに考えればいいのだ。練習で失敗したら、「よかった~ これが試合じゃなくて」と考える。ネーションズリーグで失敗したら、「よかった~ これがオリンピック予選じゃなくて」と思えばいい。いつも選手にはそう言って、なるべくリラックスさせるようにしている。 ところが、私がいくら「プラス思考でいこう」と言っても、最近の選手にはどうもマイナス思考タイプが多い。メンタルについて勉強したところ、どうやらバレーボールに限らず、いろんなスポーツでそういう傾向があるようだ。とくに20代の女性選手にはマイナス思考が多いと聞く。 性格の基本は20歳までに形成されるため、そのあとに思考パターンを変えるのは難しいという。われわれもメンタルコーチの渡辺英児を中心に、いろいろな対策を行っているが、思うような成果は出ていない。
負のオーラを払拭してやろう
私に言わせれば、プラス思考は最も手っ取り早くパフォーマンスを上げられる最高 の手段だ。技術は何カ月、何年もかけて練習しないと向上しないが、気持ちは1秒で 変えられるからだ。でも、マイナス思考の選手にはそれが難しいのである。 「気持ちを切り替えろ!」「プラス思考になれ!」と言うだけではなかなか変わらない。ただ、いちどの成功体験が人を変えることもある。だから、石川にも早いうちに成功体験をさせて、負のオーラを払拭してやろうと考えていた。 そんなとき、VNL2022の初戦で韓国と当たることが決まった。東京オリンピックの借りを返すまたとないチャンス。石川を呼び、古賀や井上と同様、率直に話をした。 「真佑、1戦目はどこと当たるか知ってるか」「知ってます。韓国です」「おまえ、まだオリンピックの韓国戦を引きずってるやろ」「はい......」「分かった。韓国戦はスタートから出したる。今回で払拭しよう」 じつは石川は事前合宿ではあまり調子が上がっていなかった。それでも韓国戦ではがんばり、チームも3-0で勝利した。ただ、そのあとの試合でのプレーはあまりよくなかった。そう簡単に吹っ切れるものではないようだ。 それは石川だけじゃない。ほとんどの選手が前年の東京オリンピックで自信を失っており、最初のネーションズリーグは暗中模索の状態だった。 それでも、私はとにかくプラスの話をするようにしていた。活躍した選手には、「今日はよかったなあ!」と大げさなぐらいに褒めた。悪いプレーをしても、「これがネーションズリーグでよかったなあ。世界選手権ではがんばろう」と声をかけた。まずは 選手たちに自信を取り戻してもらいたかったからだ。 それにしても、石川はどうしたものか......。考えあぐねていた私は、世界選手権で窮余の一策を思いつくことになる。 <第1回から続く>
(「バレーボールPRESS」眞鍋政義 = 文)
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