「黙秘権」の侵害は“他人事”ではない…「推定有罪」を決めつける検察の"説得"が冤罪を生み出す理由
海外と日本の違い
―――江口氏のように検察官から罵倒・侮辱を受けても黙秘を続けられる人は少ないと思います。 川崎弁護士:通常、権利とは「~する権利」のことです。しかし、黙秘権は「供述を拒否する権利」であると同時に「供述を強要されない権利」でもあります。 後者については、どこまでが「説得」でどこからが「強要」になるかが問題となります。 拷問や脅迫はもちろん、罵倒や侮辱も黙秘権の侵害となります。 また、説得が100時間に及ぶ場合にも当然に「供述を強要されない権利」の侵害といえるでしょう。 しかし、そもそも被疑者が「黙秘する」という権利を行使しているのだから、検察官が「説得」を続けることも、仮にそれが強要にあたらないとしても「供述を拒否する権利」の侵害です。 本来の黙秘権の趣旨を考えれば、被疑者が黙秘権の行使を宣言したら、検察はそれ以上の取り調べは( 「説得」も含めて)できなくなる、というのが正しいでしょう。 実際、他国はそのようになっています。アメリカでも、被疑者が「黙秘」と言ったら、取り調べはすぐに終わります。 ―――日本と海外の違いはなんでしょう。 川崎弁護士:まず、取り調べができる期間が、最長で23日間もある国は珍しいです。アメリカでは最長48時間、イングランドでも基本は最長24時間といわれています。 外国で黙秘権が強く認められている背景には「国家権力に対する不信」があるでしょう。アメリカやイングランドはとくにこの不信が強い。他のヨーロッパ諸国も、イングランドに引っ張られるかたちで黙秘権が定着していきました。 アメリカでは容疑者を逮捕した警察やFBIは「あなたには黙秘権がある」 「弁護士の立ち会いを求める権利がある」と被疑者に警告する義務があるという「ミランダルール」が存在します。イングランドでも、立会権と黙秘権の尊重は、基本中の基本です。 一方で、日本はいまだに国家権力を信頼しています。「痴漢冤罪」の問題があれだけ騒がれても、「刑事事件で捕まるのは他人事だ」という感覚があるようです。 これまで、取り調べの実態は一般の国民にとってはブラックボックスでした。しかし、江口氏に対する取り調べ動画がYouTubeにアップされたように、徐々に明るみに出ています。 取り調べの実態が周知されることで、国民全体が他人事と思わず「怖いことだ」と考えるようになるのが重要だと思います。