ガザの子どもたちが直面する飢餓や栄養失調、心身におよぼす影響
国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の情報を引用した国連のトルコ政府代表部の報告書によると、イスラエルとイスラム組織ハマスの昨年10月の開戦以来、少なくとも1万2300人の子どもを含む3万1000人を超えるパレスチナ人が死亡した。 これらの死は爆弾だけが原因ではない。食料の供給が途絶えたために、多くの人が飢餓や栄養失調、脱水症状で亡くなっている。米AP通信が報じたパレスチナ自治区ガザ地区の保健省の発表によると、同地区北部にあるカマル・アドワン病院とシファ病院だけでも少なくとも20人が栄養失調と脱水症状で死亡し、そのほとんどが子どもだという。 栄養失調は、きちんと身体を機能させるために必要な栄養素を摂取できない場合に陥る。一方、飢餓は身体に必要な機能を維持するのに十分なカロリーが摂取されないときに起こる。どちらも放置しておくとやがて重い病気や臓器不全につながり、最終的には死に至る。 カロリー摂取と栄養摂取の減少が子どもにもたらす最も明白な影響の1つは、発育不全だ。飢餓状態では身体は成長よりも生存を優先するため、飢餓や栄養失調に陥った子どもは低体重・低身長になる。 また、免疫系も弱くなるため肺炎や腸の感染症、マラリアなどの病気にかかりやすくなる。栄養失調になると身体のあちこちで起こり得る感染に抵抗するのに不可欠なビタミンを十分に摂取できない。例えば、ビタミンCは感染症を撃退するのに必要な白血球の機能を高める。だが、ビタミンCは免疫機能を強化する数多くのビタミンの1つに過ぎない。 飢餓や栄養不良は、心臓や循環器系にも深刻な影響を及ぼす。飢餓は最終的に、生き延びるために心筋を含む筋肉を萎縮させる。時間の経過とともに心臓は衰弱し、血液を効率的に全身に送り出すことができなくなる。
飢餓は子どもの認知能力や知能の成長にも深刻な影響を与える
さらに、栄養失調に陥ると心臓の最適な働きに不可欠な栄養素や電解質のバランスが崩れがちだ。例を挙げると、カリウムは心筋細胞に不可欠な電解質だが、欠如すると子どもも大人も不整脈として知られる異常な心拍リズムを起こしやすくなり、場合によっては命にかかわることもある。 小児期の飢餓は後に心臓の合併症につながることもある。オンライン科学ジャーナル『フロンティア・イン・パブリックヘルス』に掲載された研究によると、幼少期に飢饉を経験すると大人になってから心不全で入院するリスクが高まるという。この研究では、3万6000人超を対象に、中国で発生した飢饉(1959-1962年)中またはそれより前に生まれた人と、飢饉後に生まれた人の心不全を発症するリスクを比較している。 身体の病気だけでなく、飢餓は子どもの認知能力や知能の成長にも深刻な影響を与える。飢餓によって脳が正常に機能するのに必要な栄養素が奪われ、これが注意力や記憶力、問題解決能力の低下、そしてかんしゃくやうつ、気分の変動、不安につながることはよく知られている。 また、学校の成績が低下し、長期的には仕事に対する意欲や経済的機会に影響を及ぼす可能性がある。加えて、栄養失調の長期的な影響として不安やうつといった多くの心の病気を引き起こす可能性があり、その多くは薬物乱用や自殺、短い寿命につながる。 飢餓がもたらす健康への影響は、ガザの子どもたちを蝕んでいる。子どもたちには何の罪もなく、イスラエルとハマスの政治的な対立とは一切関係がない。世界が団結して緊急停戦と急を要するガザの人々への人道支援を求めるまでに、あと何人の子どもたちが栄養失調で命を落とせばいいのだろうか。 ユダヤ教とイスラム教の伝統は、1人の命を救うことは全人類を救うことに等しいという精神的な教えを共有している。可能な限り多くの子どもたちを救うために、今こそ世界は1つになるべきだ。
Omer Awan