NTT、世界初の開放型ヘッドフォン向けノイズキャンセル技術
NTTは14日、耳を塞がないオープンイヤー型ヘッドフォンにおいて、周囲の騒音を耳元で低減するANC技術を確立したと発表した。この技術により「周囲の音を自然に感じながらも、騒音を低減することでオープンイヤー型ヘッドフォンからの再生音がクリアに聞こえるようになる」という。今月25日からNTT武蔵野研究開発センタで開催される「NTT R&D FORUM 2024」で同技術を使ったヘッドフォンを展示する予定。 【画像】密閉型ヘッドフォンとオープンイヤー型ヘッドフォンにおけるANC比較 NTTはこれまで、「聴きたい音」が周りに漏れずに自分だけに聴こえ、「聴きたくない音」はカットする、究極のプライベート音空間“PSZ(Personalized Sound Zone)技術”の確立を目指し、耳を塞がず利用者にしか聴こえない再生を実現するオープンイヤー型ヘッドフォンの設計技術の開発に取り組んできた。 このオープンイヤー型ヘッドフォンは、周囲の音を自然に聴くことができると同時に、音漏れを防ぐ設計であるため、公共の場やオフィスなどの共用空間でも使用することができる特徴を持つ。 また、耳が疲れにくく長時間着用できるため、将来的にはオープンイヤー型ヘッドフォンから聴こえるバーチャルの音と直接耳で聴くリアルの音を融合させて聴く“音響XR技術”を提唱し、研究開発や実証実験を行なっている。 NTTが今回確立したとしているのは、オープンイヤー型ヘッドフォンにおいて、1,000Hz以上の音も低減できる能動騒音制御(ANC:アクティブノイズコントロール)技術。 現在、ヘッドフォンで使われている騒音低減技術には、能動騒音制御と受動騒音制御(PNC:パッシブノイズコントロール)の2つがある。 ANCはヘッドフォンに内蔵された参照マイクで騒音を集音し、耳元で騒音が消えているかを判断する誤差マイクを用いて、騒音の逆位相信号を生成し、ヘッドフォンから再生することで騒音を相殺。特に、1,000Hz以下の低周波を中心に減少させることができる。 一方PNCは、ヘッドフォン自体の物理的な構造で耳を塞いで騒音を遮断する方法。特に、1,000Hz以上の高周波を中心に減少させることができる。 オープンイヤー型ヘッドフォンの場合、耳を塞ぐ構造がないため、高周波の騒音が耳にそのまま到達する。また人間の聴覚特性として3,000Hz付近が敏感に聞こえるため、オープンイヤー型ヘッドフォンにおいて聴感上で効果的な騒音の低減を実現するには、ANCで1,000Hz以上の高周波の消音が必要だった。 そこでNTTは、ANC技術を用いて1,000Hz以上の騒音を低減する方法として、参照マイクで集音した騒音から、騒音の逆位相信号が誤差マイク位置に到達するまでの処理を極低遅延(サブミリ秒単位)で実行させることに着目。 音が発生源から目標位置に到達するまでの時間差(音響的遅延)と、機器やヘッドフォン内部の機械的な部品が動作する際に生じる遅れ(機械的遅延)という、2つの遅延要素を減らす技術を開発した。 まず前者は、騒音の発生元と参照マイク、そしてヘッドフォンに内蔵されたスピーカーユニットと誤差マイクが近くなるようにマイクを配置する新設計を確立することで音響的遅延を低減。後者は、新たなハードウェア設計とソフトウェア処理を組み合わせ、周波数帯域ごとの機械的遅延を削減した。 これにより、オープンイヤー型ヘッドフォンにおけるANCの広帯域化を世界で初めて実現。飛行機内の騒音を用いて本技術を評価したところ、3,000 Hz付近まで低減することを確認。具体的には、1,000~3,000Hzで最大13.7dB、平均7.8dBの騒音抑圧を実現したとしている。 NTTでは今後、同技術を搭載したオープンイヤー型ヘッドフォンの実用化を目指し、さらなる騒音低減の広帯域化および様々な実環境での検証を進めるとのこと。また、ヘッドフォンから聴こえるバーチャルの音と、直接耳で聴くリアルの音を融合させて聴く音響XR技術と本技術を統合した没入型エンターテインメントや音声ガイドのような新しい音響体験を、NTTグループ各社を通じてサービス展開していくという。
AV Watch,阿部邦弘