糖質制限したらなぜか糖尿病になった…「ご飯、パン、麺抜き生活」を続ける43歳女性に起きた"膵臓の異変"
■インスリンの働きを保ち、血糖値を上げないためには? では、インスリンを出す力を守りつつ、血糖値を上げすぎないことを両立するには、どのような食事をしたらいいのでしょう。 ポイントは、“甘い飲み物はやめて、主食は食べること”です。 まず、甘い飲み物について説明します。甘い飲み物は糖質の吸収スピードが速く、血糖値を急激に上昇させます。すると、インスリンの分泌力が弱い日本人は、血糖値を速やかに下げることが難しく、血糖値が高い状態が続き、糖尿病のリスクが上がります。 野菜ジュースや乳酸菌飲料、ビネガードリンクのように健康効果を謳った商品や、疲労回復や集中したいときに飲むエナジードリンクなど、甘い飲み物の種類はたくさんありますが、“血糖値を急激に上げる”ことに変わりありません。過剰なエネルギー摂取は太りやすくもなります。糖尿病だけに限ったことではなく、健康維持のために甘い飲み物はやめるのがベストです。飲み物は水、お茶、ブラックコーヒーにしましょう。野菜ジュースを減らしてビタミン摂取が減るのが心配ならば、食後にみかん1個食べるほうがよいでしょう。 次に、主食についてです。食事から主食を抜いてはいけません。ご飯などの炭水化物が多い食品には糖質だけでなく、食物繊維が含まれます。食物繊維は血糖値を安定させる重要な成分。食物繊維は消化されにくいため、胃の中に長くとどまるので満腹感が長く続き、食べすぎを防ぐ効果も期待できます。また、そもそも糖質は活動をするエネルギーとなる重要な栄養素です。とり過ぎることが問題なのであって、食べてはいけないわけでは決してありません。なお、運動習慣のない体重60kgの方の場合、1食のご飯の目安はお茶碗1杯150gほどです。 糖質制限ブームの影響もあってか、昨今糖質量ばかりが注目されがちですが、穀類には糖質以外に食物繊維のほか、さまざまな栄養素が含まれていることを忘れないでください。いっぽうで、ジュースは“糖質の塊”。水に溶けて体に吸収されやすくなっているので、血糖値への影響は甚大です。同じ糖質と一括りにして考えてはいけないのです。 ■“ベジファースト”を徹底する必要はない 血糖値の上昇を抑えるために「ベジファースト」を心がけている人もいるかもしれません。 ご存じのように、野菜を食事の最初に食べる食事法です。ただ残念なことに、普通の食事をしている人が野菜を先に食べるだけで血糖値が上がりにくくなることを示す決定的な報告は出ていません。根拠が乏しいこともあってか、糖尿病の食事指導の項目からもベジファーストについての記載は削除されています。 ベジファーストを意識することで野菜の摂取量が自然と増えるなら、それは結果的によいので、ベジファーストの功績かもしれません。ただ、とにかく野菜を全部先に食べきってからほかのおかずに手をつけるという順序を徹底する必要はないでしょう。温かいものは温かいうちに。料理をおいしく食べられるタイミングで食べればいいと思います。 血糖値との付き合いは一生のこと。根拠が乏しいデータによって食事の順番を決めつけたり、糖質という1つの栄養素だけで対処したりしようとしないで、栄養のチームワーク力を活かす食事を心がけたいものです。 ---------- 大坂 貴史(おおさか・たかふみ) 医師 京都府立医科大学卒業後、京都南病院で初期臨床研修を経て京都第二赤十字病院に就職。その後、京都府立医科大学大学院博士課程で医学博士を取得し、現在は綾部市立病院_内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌糖尿病代謝内科学講座客員講師。糖尿病専門医・指導医、総合内科専門医、日本医師会認定健康スポーツ医。市中病院で糖尿病をもつ患者さんを診察しながら、大学で糖尿病に対する研究を行っている。糖尿病と筋肉、糖尿病運動療法が専門。幸せになる運動の開発が現在の研究テーマ。趣味は料理とワイン。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、SAKE DIPLOMA。居合道・弓道・合気道有段者。YouTube、Xで医療情報を発信している。YouTubeの掛け声は「健康はぁ~筋肉ぅ~」 ----------
医師 大坂 貴史