62年間にわたって新潟駅（新潟市）の「顔」だった旧JR東日本新潟支社ビル（旧国鉄新潟鉄道管理局庁舎）が取り壊され、その後ろに真新しい在来線の高架駅が出現した。この高架下に2024年4月25日、駅ナカ商業施設「CoCoLo（ココロ）新潟」がグランドオープンする。 【関連画像】「ココロ新潟」は段階的にオープンしている 　新幹線の高架下に以前からあった区域と合わせると、店舗面積は2万6500平方メートルと2倍に。店舗数は約170に達する。これはJR東の管内では吉祥寺駅（東京都武蔵野市）の「アトレ吉祥寺」とほぼ同じ規模という。開業準備に奔走したJR東日本新潟シティクリエイト（新潟市）の清水理三郎担当部長は「社内では当初、利用客数が東十条駅（東京・北）や西八王子駅（東京都八王子市）程度しかない駅に、アトレ吉祥寺並みの商業施設をつくれるのか、と言われた」と苦笑する。 　新潟駅の乗車人員は22年度で1日平均約3万人。JR東の駅別ランキングでベスト100にも入っていない。ちなみに100位までは、46位の仙台駅（約8万人）を除いて、すべて首都圏の駅で占められている。 　それだけ巨大な首都圏マーケットを有するJR東にとって、これまで新潟駅での商業展開は、もっぱら新幹線で訪れる出張・観光客向けの土産物店や飲食店にとどまっていた。しかし、新潟と同じ程度の乗車人員である金沢駅（金沢市）、鹿児島中央駅（鹿児島市）では、年商200億円を超える駅ビルが成功を収めている。「同程度の売り上げを目指し、店舗の誘致を進めた」（清水氏）。ポイントは、地元の人たちの日常利用を重視した商業施設への大転換だ。 　新潟も、地方都市のご多分に漏れずクルマ社会だ。鉄道の利用はクルマを運転できない若年や、苦手とする女性が多いという。こうした層を意識し、新潟県初出店のアパレル、コスメ、雑貨店を多数誘致。2月に先行して開業した雑貨店「3COINS +plus（スリーコインズプラス）」には、オープン初日に長い列ができたという。総菜に定評があるスーパーマーケット「成城石井」を誘致したのも、女性が仕事帰りに立ち寄るニーズを狙ってのことだ。清水氏は「全体の7～8割が日常利用になるだろう」と見込む。 　ただ、立地に勝る駅ナカが充実することは、既存の商業施設にとって脅威となる。例えば名古屋では、名古屋駅直結の百貨店「ジェイアール名古屋タカシマヤ」がオープンしたことにより、それまで商業の中心だった栄エリアから名古屋駅周辺に人の流れがシフト。地域一番店の座を「松坂屋名古屋店」から奪う結果になった。 ●駅ナカで囲い込まない 　こうした懸念に対して、JR東の執行役員新潟支社長・白山弘子氏は「駅ナカで囲い込むつもりは全くなく、街中に人を送り出していかないといけない。クルマ社会になって少しさみしくなった中心部をにぎやかにしていくという点で、地元商店会と同じ思いだ」と強調する。 　そのためにJR東は新潟市の「にいがた2km（キロ）」という取り組みに協力している。新潟駅から中心市街地である万代、古町エリアまでの約2キロメートルを回遊してもらうのが狙い。地元商店会などと一緒に、イベントを何度も仕掛けてきた。 　JR東の新潟駅周辺整備推進室でマネージャーを務める片山良治氏は「ココロ新潟のターゲットを既存の商業施設とずらして、競合しないようにしている」とも明かす。万代エリアにある若者向けの商業施設「万代シティ ビルボードプレイス」と中高年向けの百貨店「新潟伊勢丹」の中間を狙うという。テナントの引き抜きも先方から要望がない限りは控えたため「新たな店舗に声をかけなければならず、出店交渉は苦労した」と新潟シティクリエイトの清水氏。 　しかし、その過程では面白い出来事もあった。新潟を代表するB級グルメ「タレかつ丼」発祥の店とされる「とんかつ太郎」。ダメもとで出店交渉に訪れたところ、逆に「後継者もいないし、閉めようと思っている」という答えが返ってきたという。しかし「JRに期待されているなら」と、最終的に本店を親戚に託し、かつ丼専門の新業態を駅に出店することに。老舗ののれんが守られる結果となった。 　25年春には、新潟駅の東側約1.5キロメートルの地点に越後線の新駅「上所駅」も開業予定。新潟支社長の白山氏は「宅地開発が進み、学生も多いエリア。新潟駅に列車でより行きやすくなる」と期待する。 　駅ナカ、そして新駅の開業は、クルマ社会といわれる地方都市においても、まだ鉄道が活躍するポテンシャルが残されていることを示している。 　一方で、新潟支社は利用が厳しいローカル線も多数抱えている。今、存続か廃線かを巡り、地元との議論が始まろうとしているのが米坂線の坂町（新潟県村上市）～今泉（山形県長井市）間。22年8月の豪雨災害で被害を受け、長期運休が続いている。23年9月に沿線自治体と「JR米坂線復旧検討会議」を設置した。