JR東、新潟に巨大駅ナカ開業 都市開発の陰で進まぬローカル線復旧
代行バスの乗客、10人足らず
白山氏は「復旧費に約86億円、約5年の工期がかかる」とした上で、「復旧費という目先のお金というよりは、その後も安全の質を維持しながら、安定的に経営・運営できるのかという課題がクリアになることが大事。維持するにも、相当のコストがかかってくる」と強調する。 地元は鉄道での復旧を望んでいるが、21年度の輸送密度(1キロメートル当たりの1日平均通過人員)は、小国駅(山形県小国町)を境にして新潟県側は124人、山形県側は226人。収支はそれぞれ5.3億円、8.5億円の赤字だった。白山氏は「ここ30年間で沿線人口は2割減だが、利用者は7割も減った。県境をまたいで移動する人はほとんどおらず、高校生の通学がメインだ」と話す。 3月初旬の土曜日の夕方、坂町駅から小国駅へと向かう代行バスに乗ってみた。10人足らずの乗客を乗せて発車したバスは、土砂崩れなどの現場を横目に、米坂線とほぼ並走する国道113号線を走っていく。部活帰りだったのだろうか。高校生たちは新潟県内で降りてしまい、県境を越えて小国駅まで乗っていたのは4人だけだった。 代行バスが走る国道113号線は新潟と山形を結ぶ幹線道路。県境区間はカーブが連続する険しい道だったが、高規格道路の建設が進められている。米坂線が往年のように新潟・山形両県を結ぶ役割を担うのは絶望的だ。 新潟支社は、JR東が公表する輸送密度2000人以下の線区別収支で、ワーストの線区も抱えている。羽越本線の村上(新潟県村上市)~鶴岡(山形県鶴岡市)間だ。22年度は運輸収入が約4.5億円だったのに対して、営業費用が約54億円。差し引き約49.5億円の赤字を出している。日本海沿いを走るため強風対策などが必要な上に、特急列車や貨物列車が走る分、維持コストがかさんでいる。新幹線が走らない山形県庄内地方において重要な幹線であり、廃線という選択肢は考えにくいが、輸送密度は1171人と厳しい。 ●観光列車だけでは路線を維持できず この区間を含む新潟駅~酒田駅(山形県酒田市)で、JR東は週末を中心に観光列車「海里」を走らせている。24年は10月に運行開始5周年となる節目の年だ。 担当する新潟支社地域共創部地域連携ユニットの加藤康徳氏は「乗客の約半分が首都圏からの旅行客。上越新幹線などを往復で利用してもらえることも加味した上で、列車の収支を見ている」と話す。 海里は4両編成で、1~2号車の62席が指定席。特急列車でなく快速列車のため、運賃以外の収入は大人1人840円の指定席料金だけだ。4号車の24席は食事付き旅行商品専用で、24年4~9月の料金は1万1900円~1万8200円。一見高いように思えるが「料理を提供していただいている料亭やレストランも、食材費や人件費が上がっており大変な状況だ」(加藤氏)。ちなみに3号車は売店とイベントスペースだけで、物販以外の収益を生まない。 新潟支社長の白山氏は「観光列車で話題をつくり、乗って満足していただいたら、今度は他の旅行目的でまた来てもらう。あの手この手で人を動かすための工夫を続けていかなければいけない」と話す。一方で「単純に観光列車だけでローカル線を維持することはできないし、企業の体力には限界があるので、どこででも走らせられるわけではない」(同氏)。ローカル線の沿線自治体からは、観光列車で利用促進という“対策”が必ずと言っていいほど挙がるが、そう簡単ではないということだ。 白山氏はこう話す。「当社は鉄道のビジネスをやっているので、乗ってもらうことはもちろん大事。一方で、違った形で地域に貢献していくことも、大いに期待されていると思う」。鉄道会社が、鉄道以外で地元に貢献するとはどういうことなのか。新潟で動き始めた取り組みを次回、紹介する。
佐藤 嘉彦