「就活の仕組みが適当すぎはしないか?」「就活はうまくいったけど、肝心の仕事はさっぱりダメ」受験、就活、出世競争……京大文学部の二人が激化する競争社会にツッコミ「これ、なにやらされてるんやろ?」【三宅香帆×佐川恭一対談 前編】
激化する競争社会にツッコミを入れたい
三宅 『就活闘争20XX』では、競争の理不尽さをデフォルメして書いているじゃないですか。そういう問題意識がいつからあったんですか? 佐川 そうですね。僕は正直、受験のときは大学までしか人生が見えていない状態でただただ勉強してたんですけど……。だから実は、そういう就活とか社会の仕組みに本格的に違和感を持ったのって社会人になってからなんですよ。 受験のときは洗脳されてたのかわからないですけど、理不尽に競争させられている意識はあまりなくて。でも、やっぱり社会に出ると評価軸が変わってくるというか、なにで評価されているのかわからなくなってくる。 三宅 すごくわかります。 佐川 結局、就職活動はうまくいって大手損保に入社できたんですけど、肝心の仕事はさっぱりダメでした。 1980年代くらいから「コミュ力」が重視されてくるみたいなことを三宅さんも『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』でも書かれていましたけど、まさに自分は社会で評価されるような能力があまり高くないことに、会社に入ってからようやく気づいたんですよね。 そんな会社のなかでもあからさまに出世競争しているやつもいるし、そのへんからちょっと違和感を感じるようになりましたね。その違和感を就職活動というテーマに落とし込んでいった感じです。 三宅 わかります、わかります。仕事でも就活もそうですけど、本当にそこまで差異化しなくちゃいけないのか? と思っちゃうことが多くて。競争って要するにレベル分けじゃないですか。 わざと就活偏差値ランキングとか作ったりして「そこまでレベルを細分化して競う必要ある?」「半身で働くのもいいんじゃない?」ってツッコミを入れたくなってしまう。真剣に競争している人からすると「いや、半身なんて言うな!」と怒られるかもしれないですけど。 佐川 いやいや、ツッコミ入れる人がいないとダメですよ。就活にしろ仕事にしろ、今の世の中を見てると「これはやりすぎじゃないか?」って思って当然だと思います。 三宅さんにも『就活闘争20XX』の書評で書いていただきましたけど、茶番みたいな就活をSF設定で書くことによって、逆に真っ向から「おかしいやろ」っていうのを言いたかった。だからあの書評は本当にありがたかったんです。 三宅 いやいや、佐川さんがこのまま順調にステップを上がっていって、本当に芥川賞を獲るまで私は追いかけていくつもりです。 佐川 それはそれは、ぜひ見守っていただければ……。 #2へつづく 取材・文/集英社オンライン編集部
集英社オンライン編集部
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