「就活の仕組みが適当すぎはしないか?」「就活はうまくいったけど、肝心の仕事はさっぱりダメ」受験、就活、出世競争……京大文学部の二人が激化する競争社会にツッコミ「これ、なにやらされてるんやろ?」【三宅香帆×佐川恭一対談 前編】
「就活」と「仕事」で求められる能力の大きな差
三宅 「カルト」と「メジャー」の話に戻りますけど、佐川さんが今回書かれた『就活闘争20XX』(太田出版)は、佐川さんがすごいメジャーを狙いにきている!と感動し、今までと違う印象を受けました。 佐川 感じていただけましたか?(笑) 三宅 「ボールを投げてきている!」って。しかも、その投げるところが「就活」っていうのがいい。佐川さんといえば受験戦争、みたいなイメージはあるんですけど、受験よりも就活のほうが普遍的に描けるものが多い気がしていて。 それでいてデスゲームという佐原さん本来の持ち味であるカルト感も残しつつ、という作品だったので「佐川さんが今、最高だぞ!」と僭越ながら宣伝したい気持ちで書評も書かせていただきました。 佐川 『小説現代』のやつですよね。めっちゃうれしかったです。 三宅 就活というテーマを選ばれたのはそういう意図もあったんですか? 佐川 そうですね。就活してたころから、就活って面白いなと客観的に思ってたんですよ。「これ、なにやらされてるんやろ?」みたいな。 三宅 たしかに謎ですよね。 佐川 『就活闘争20XX』には太田っていう主人公が出てくるんですけど、あれはほぼ自分を投影しているような感じなんです。最初は全然やる気がなくて、でも周りが急に就活モードになったのにつられて就活をはじめる……みたいな。 でも、全然意味がわかりませんでした。京大で「他己分析セミナー」っていうイベントがあったんですけど、ひとしきり1対1でしゃべって、自分で思っていることと相手の分析の差を比較して自己理解に役立ててください……みたいな。なんやこれ、と思ったんですよね。 三宅 私も思い出しました。面接でアピールしようとしてるエピソードを友達と披露し合う、とか。そのとき一緒にやった友達に「三宅って集団行動できるんや」って言われたのを覚えてます(笑)。 佐川 今振り返ると「あの時期ってなんやったんやろ」って思いますよね。僕も全然やる気なかったのに、面接では熱血キャラを作ってワーってしゃべるみたいな。キャラ作りにしては面接もうまくいったんですけど、「なにしてるんやろ」感は強かったですね。 でもみんな演技しないと通らないから演技してるし、面接官側もそんなことわかってるやろうし、みたいな。しかも就活で測られてる能力って、就職してから仕事に必要な能力と全然違いますよね。 三宅 わかります。これ、何の能力を測っているんだろう? と感じざるを得ない。それこそ『就活闘争20XX』を読んで思ったんですよ。 世の中には大学受験というものがあって、その競争を勝ち抜こうと思うのはなぜかというと、その先に「就職活動で成功していい企業に行く」という目的があるわけじゃないですか。だからあんなに勉強を頑張るのに、実はその出口の就活の仕組みが、現状、適当すぎはしないか?と。 佐川 そうそう、受験と就活でも違うし、就活と会社に入ってからの仕事でも違う。すごくチグハグ感がありますよね。
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