稲盛和夫さん「胃がんがわかっても平常心」の強さ 30年間にわたり彼を見てきた参謀のノートより
会長就任を固辞し続けたにもかかわらず、政府からの強い要請を受けて会長に就任せざる得なくなった稲盛さんにとっては、極めて不本意な報道です。 ■逆境の中でも平常心を失わない しかし、それに動ずることはまったくありませんでした。 JALに着任した当初は、社内の人たちの視線も冷たいものでした。「誰も心を許して話してくれない」「四面楚歌とはこういうものか」と私に嘆いていたこともありましたが、そのような深い谷底に落とされたような逆境のなかでも、稲盛さんは焦ることもおもねることもなく、平常心を失うことはありませんでした。
名経営者としての評価を失うと危惧されても、マスコミから厳しく批判されても、社員から冷たい視線を浴びても、会長として常に明るく前向きに振る舞い、経営判断もブレることはありませんでした。 その折々の言動や判断は社員を安心させ、活気づかせました。一緒に再建に取り組むことになった私自身も、当時は不安に思うことばかりでしたので、いつもと変わらぬ稲盛さんの姿を見て、勇気づけられていました。 稲盛さんはよく中国古典の『呻吟語(しんぎんご)』のなかにある「深沈厚重なるは、これ第一等の資質」という言葉を引用し、何事にも動じず、物事を深く考えられることが人間として一番大事な資質だと話していました。それは、平常心を持つということとほとんど同義語であり、稲盛さんの生き方に近いと思うのです。
大田 嘉仁