ライオン「詰め替え」推進でプラ使用量8割減。花王と協業で「水平リサイクル」を実現
156万本の歯ブラシを回収
オーラルケアで日本トップの売り上げを誇るライオン。創業から130年以上の歴史は、「健康は歯から」をスローガンに「歯磨き習慣」を定着させる歴史でもあった。 最近では、口腔内の健康が全身の健康状態に影響することが広く知られるようになった。 歯周病を防ぐ、最も身近な対策は歯磨きだ。冒頭で触れた歯ブラシの回収・リサイクルについては、約10年前の2015年から開始した。 「歯ブラシの毛先が開いてしまうと、刷掃力が落ちてきれいに磨けなくなります。もったいなかったり変えるタイミングが分かなかったりしてつい使い続けてしまいがちなのですが、“開いたら回収するので、新しい歯ブラシに替えてください”と訴える取り組みを始めたんです」(池西さん) 歯ブラシの回収・リサイクルは、歯磨きから始まる健康づくりに力を注いできた同社のプライドをかけた取り組みでもある。 地道な取り組みの結果、現在は国内で約1400カ所に回収拠点を設け、2024年3月末時点で約156万本の歯ブラシを回収してきた。 「東京都では、墨田、板橋、台東の3区とも連携して回収を行っています。 回収に協力してくれている小中学校の児童生徒に何にリサイクルしてほしいか聞いたところ、墨田区の学校からは定規にしてほしいという希望があり、定規を作って寄付する取り組みもしています」(池西さん)
オーラルケアで健康格差を解消
「ライオンは、事業を通じて社会に貢献したいという創業者の思いから始まりました」 そう話すのは、サステナビリティ推進部 エシカルマーケティングプロデューサーの小和田みどりさんだ。 約130年の間に受け継がれ、醸成されてきたライオンの企業文化は、2021年に策定した中長期経営戦略フレーム「Vision2030」にも色濃く反映されている。 「私たちのパーパスは、『より良い習慣づくりで人々の毎日に貢献する』ということ。そのなかでも、健康な生活習慣づくりはサステナビリティの最重要課題です。 2030年にオーラルケア習慣で5億人、手洗いなどの清潔・衛生習慣で5億人、合計10億人に対し、ライオンの製品・サービス、情報を提供することで健康な生活習慣づくりに貢献することを目指しています」(小和田さん) 歯磨きはいまや日本人なら誰もが行っている習慣のように思われるが、それでもまだまだやるべきことはあるという。一例が自然災害による影響だ。 「2016年4月の熊本地震では、災害関連死で亡くなった方のうち3割が誤嚥性肺炎などの呼吸器系の病気でした。 その原因の一つとして考えられるのは、ウィルスや細菌です。避難所でオーラルケアができなかったことでリスクが高まり、健康に影響を与えてしまった可能性もあるかもしれません。」(小和田さん) そうした状況を踏まえ、ライオンはオーラルケアの機会を失うことで起こる健康格差の解消に力を入れている。 「IoTやAIなどのテクノロジーを使ってさまざまなサービスや商品を提供するということにも着手しました。インクルーシブ・オーラルケアというプロジェクトを通して、新しい予防歯科習慣の定着に取り組んでいます」(小和田さん)