「桜の花は見られない」余命宣告された森永卓郎が独白 「延命にこだわらない私が月100万円の治療を受ける理由」 資産の終活のウラ側も
大量の通帳、印鑑
まず、預金関係では、口座の存在自体は分かっていても、通帳と印鑑、キャッシュカードの三点がそろっていないものがいくつもあった。 預金先の銀行は10行ほど、印鑑も10本以上あったが、どの通帳にどの印鑑が対応するのかも分からなかった。昔は、通帳に印鑑が押してあったのだが、いまは押印がない。だから、通帳と印鑑の束を持って、銀行の窓口を訪ねないといけない。しかも13年前との一番の大きな差は、いまはいきなり銀行窓口を訪ねると、2時間前後も待たされてしまう、ということだ。銀行がリストラで支店の数とスタッフの数を大幅に削減したため、どこの銀行も大行列になっているのだ。待ち時間を避けるためには、ネットで予約を取らないといけないのだが、予約可能日が2週間先ということもしばしばだった。 通帳も、最新のものがみつからない銀行が半分近くあった。そうなると銀行に通帳の再発行を依頼するしかない。印鑑に関しては、該当するものが見つからないと、改印届が必要になる。その場でやってくれる銀行もあったが、一番長いところでは、本部の処理を含めて改印に3週間程度の時間がかかった。窓口での手続きも、1行当たり数時間かかることが多く、それだけで膨大な時間が奪われていく。
株価バブルと円安バブルで大金が
銀行とは別に証券会社との取引もあった。実は、私はもうすぐバブルが崩壊して、株価は最悪10分の1になると公言してきた。そのため、がんとは関係なく、数年前から少しずつ株式を処分してきたのだが、がん宣告を受けて、株主優待を得るために必要な株式を除いて、すべて処分することにした。 ただ、私は証券会社との取引を電話でやってきた。下手にネットでつなぐと、ハッキングされかねないと思ったからだ。ただ、電話取引と比べると、ネット取引での株式売買手数料は、半額程度に下がる。そのため、私は自分の口座でネット取引ができるように証券会社に申請した。この手続きだけで、3週間ほどの時間が必要だった。ネット取引の態勢が整ったこの春から、私は猛烈な勢いで株式と投資信託を処分していったのだが、株や投資信託は、買うよりも売る方がはるかに難しい。特にバブルが続いている間は、過去最高値の更新が続くので、売却の決断が鈍るのだ。 私自身もちゅうちょして、ドル建て資産を処分し終わったのが6月、ユーロ建て資産は7月までかかった。ただ、がんが背中を押してくれる形で、折からの株価バブルと円安バブルの恩恵をフルに受けて、私の元には大金が転がり込んできた。だから、少なくとも数年間は、いまの高額治療費を負担し続けられることになった。その意味では、バブルを生み出してくれた投機筋に感謝すべきなのかもしれない。バブルという「泡」を、点滴薬という「液体」に凝結させることができたからだ。 後編【「闘病中なのに執筆で完全徹夜」 余命宣告された森永卓郎がフルスピードで駆け抜ける理由 「書籍12冊を同時執筆」】では、生前整理にめどがついた森永氏の現在の生活について語ってもらっている。 「週刊新潮」2024年9月19日号 掲載
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