いづれの御時にか…「源氏物語」爆誕! どこから書き始めた?起筆論は エピソード「ゼロ」があったのでは
「桐壺」を帝へ…インパクト勝負?
たらればさん:今回の「光る君へ」では、道長が一条天皇へいきなり直接源氏物語を奉ったことになっていますが、史実ではこういうかたちで帝が読むことになったわけではなかっただろう、とも思います。 まずは彰子や女房たちの間で話題になったことで、評判を聞いた帝がそれを読むために彰子のもとを訪れた……という順番だったんだろうなと。 水野:先に知的で雅な定子さまのサロンがあり、それを書き記した「枕草子」が話題になるなかで、「なんとか彰子さまのところにも来てほしい」と、道長が紫式部や和泉式部、赤染衛門らの知的な女房をそろえた……ということでしたよね。 たらればさん:ええ。女房たちの間で話題になるということは、(長大な物語ではなく)短いエピソード集のような読み物が先行していたのではないか。失敗談とか熱愛譚だとか、エッセンスのつまったエピソードがあったんじゃないかなとも思いますね。 そのうえで、もしかしたら第三十一回で、帝に奉る前にまひろが書いて道長へ見せていたエピソードが、「末摘花」や「須磨」、「若紫」だったのかもしれません。 そのいっぽうで、「光る君へ」の道長のように、「まず帝に見せる」「一気に物語へ引き込む」というインパクト勝負で考え、(定子とのことを思い出させる)枕草子に対抗するため……と考えると、「桐壺」から読ませた、というのはうまいな、と思いました。 水野:ドラマで帝はこの冒頭のあたりまでを読んで、ハッと我に返ったように閉じてましたよね。 <いづれの御時にか 女御・更衣があまたお仕えしているなかに それほど高い身分ではありませんが 格別に帝の寵愛を受けて栄える方がいらっしゃいました 我こそはと思い上がっていた方は 目障りなものとしてさげすみ 憎んでいたのです> たらればさん:冒頭から衝撃的な本を読んだら、たしかにいったん閉じますよね。解像度が高いな、と思いました(笑)。 水野:そうですね、でもまたすぐ本を開いちゃうんでしょうね…! たらればさん:今回、どこまで冊子が書かれたのかも分かりませんが、一条帝がどこで「桐壺帝って…これ、自分のこと?」って思うかですよね。 今後、どういうエピソードが盛り込まれるとか、どういうふうに帝が受け止めるかといった描写が出てくると思うので、ワクワクしつつ、ハラハラします。『源氏物語』の前半で最愛の妻を亡くした桐壺帝は、だいぶ早い段階で息子に後妻を寝取られるので…。