セブン井阪社長「売却検討ではない」 IPOしてもヨーカ堂は“身内”
連結営業利益の1割に満たず
だが、今のままではIPOの実現性は乏しい。JPモルガン証券の村田大郎シニアアナリストは「セブン&アイHDはヨーカ堂のIPOについて2~3年前から言及していた。ただ業績と資産効率が悪く、会社側はIPOが困難だと考えていた」と話す。 赤字が続くヨーカ堂は目下、「抜本的変革」に取り組んでいる最中だ。創業当初から手掛けていた自社アパレル事業から撤退、地方を中心とした店舗の閉鎖、食品スーパーのヨークとの合併など、痛みを伴う構造改革を進めている。ヨーカ堂を含めた首都圏のSST事業については26年2月期のEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)で550億円を目指しており、改革に伴うコスト削減効果などで25年2月期は282億円となる見込みだ。 ヨーカ堂の山本哲也社長は「まず絶対条件、最低条件は進めている抜本的変革をやり遂げることだ」と強調。その上で「改装を進めている店舗では客数もトップラインも伸びている。一方、閉店を控えている店舗もあって全体では伸びていないというのが実情だ」と説明した。 また、グループ会社で食品製造のPeace Deli(東京・千代田)の新拠点が千葉市にオープンしたこともあり、山本氏は「店舗の作業効率を上げられる商品などが入ってくることで、総菜の売り場を広げられる。また課題となっているファミリー層の集客もグループ会社の商品を取り入れることで取り込む。十分トップラインは伸ばせる」と自信を見せた。 セブン&アイHD全体の業績は堅調だ。25年2月期の業績予想は、売上高が前の期比2%減の11兆2460億円、最終利益が同30%増の2930億円。日本や米国で展開するコンビニ事業がけん引し、売上高は3期連続で10兆円の大台に乗せ、最終利益は過去最高を更新する見通しだ。ただヨーカ堂を含むSST事業は営業利益に占める割合がもはや1割にも満たず、決算説明会でも約1時間20分だった会社側の説明時間のうち、割かれた時間はわずか6分強だった。 祖業とはいえ、もはや非中核事業となってしまったヨーカ堂。それでもセブン&アイHDの経営陣や戦略委員会はIPOによって自立を目指しつつ、根底の部分でつながりを残す方策を打ち出した。UBS証券シニアアナリストの風早隆弘氏は「さまざまなステークホルダー(利害関係者)に配慮しながら今回、『完全売却はない』と結論付けた。中核事業であるコンビニ事業の競争優位性の維持の観点からグループに残すというメッセージだ」と見る。 IPO検討を宣言してもなお、井阪氏ら経営陣のヨーカ堂に対するこだわりが垣間見えた会見だった。
高城 裕太、Ten Umekuni