「諦めない」体現、難病抱え花園に挑む 長崎北陽台・多喜田愛音選手
28日にある第104回全国高校ラグビー大会の1回戦で、城東(徳島県)と対戦する長崎北陽台のフランカー多喜田愛音(まなと)選手(3年)は、消化器に炎症が起こる難病「クローン病」を抱えながら、プレーを続けてきた。投薬や食事による治療と並行した激しいトレーニングで、細かった体はこの3年間で約30キロ増量。あこがれの花園の第1グラウンドで、鋭いタックルを重ねて勝利に貢献することを誓う。 11月23日の長崎県予選決勝。前回大会の県代表、長崎南山を相手に、多喜田選手は開始早々に低いタックルを決めた。起き上がるとすぐに空いたスペースを埋めてまたタックル。献身的なプレーで2年ぶりの花園出場の原動力になった。品川英貴監督(49)は「本当に努力家。堅実なプレーで大崩れしない」。FWコーチの浦敏明さん(77)も「きゃしゃだが芯が強い。タックルにも責任感がある」と太鼓判を押す。 ◇ 中1の時に長崎県長与町のラグビースクールでプレーを始め、九州大会での優勝などを経験。プレーと学業の両立を目指し、ラグビー強豪で進学校の長崎北陽台に合格した。しかし、入学前に血便が出て、検査の結果、下痢や腹痛などが起きる国指定難病のクローン病と診断された。 ラグビー部には入部したものの、体が食べ物を受け付けず、学校生活を送るだけで精いっぱい。ラグビーを続けようか迷った。そこへ父克彦さん(50)は「行けるようになったら行けばいい」と言い、母恵美さん(48)は食事面などで支えてくれた。中学時代からのチームメート、下田秩(ひいづ)主将(3年)らも校内で会う度に「大丈夫か」と声を掛けてくれた。 ◇「仲間と一緒に」一心で 「仲間と一緒にラグビーがしたい」。その一心で、液体の薬を1日2本服用し、消化しづらい油ものや食物繊維を避けるなど食事に気を付け、根気よく治療に臨んだ。1年の夏から、見学のみながら、練習に顔を出せるようになった。 2年の夏、薬を変えると体に合い、食べられる量が増えて体重も増加した。練習に加わって徐々にハードなメニューにも対応。試合に出られるまでになった。入学時に身長171センチ、55キロの細身だった体は現在、175センチ、83キロまで大きくなった。 間近で見てきたCTB中田悠太選手(3年)は「症状がひどい病気だとは知っていた。諦めずに頑張ってきた愛音はすごい」と感心する。 多喜田選手は花園後は競技を離れ、薬剤師になるため大学進学を目指す。「自分は薬を変えてラグビーができるようになった。同じように苦しんでいる人の力になりたい」と考えるからだ。 「同じ病気で落ち込んでいる人がいたら、諦めずにやっていけばどうにかなると伝えたい」。プレーできる喜びを、最後の晴れ舞台で存分に表現するつもりだ。【尾形有菜】