女子レスパワハラ問題はどんな影響を与えたのか?「メディアが怖い」の声も
この半月ほど、女子レスリング界は注目の的となっていた。その強さや好成績ではなく、五輪4連覇の伊調馨(33、ALSOK)に対して栄和人・強化本部長(57)や協会幹部からパワハラがあったという告発状が提出されたことをきっかけに連日、何らかの報道が続いているからだ。 ざわざわした雰囲気のまま迎えた女子レスリングワールドカップ(国別対抗団体戦、17、18日・群馬県高崎市)だったが、日本は通算10回目の優勝を勝ち取り4連覇を果たした。この成績だけを記してしまうと、日本女子チームは、楽々と圧勝したかのように感じるかもしれない。だが、現実には、一人ひとりが細かい工夫をこらしながら試合に集中した結果、手にした勝利だった。 「こういった状況の中での大会でしたが、4連覇できてホッとしています。ありがとうございました。決勝の中国戦は、本音では勝てるかどうか半々くらい、とみていましたが、ギリギリでしたが優勝することができました。本当にみんなの力のおかげです」 心身の衰弱に伴い休養を発表した栄氏に代わりチームを率いた笹山秀雄監督は、コーチ陣も選手とともに表彰される団体戦だったため、表彰式で授与された金メダルを首にかけ嬉しさをかみしめるように決勝戦を振り返った。限られた選手層で研鑽している日本と違って、競技人口では叶わない中国の強みは重量級での人材の豊富さだ。できるだけ軽量級で確実に勝利を重ねて逃げ切るというのが日本の戦略だった。 「50kg級の入江ゆきが、リオ五輪金の登坂(絵莉)や去年の世界チャンピオンの須崎(優衣)でさえ接戦だった中国選手を相手にしっかりと勝ってくれたことで勢いがつきました。59kg級の川井友香子の相手も世界チャンピオンで手強かったのですが、競り勝ってくれた。そして自分が勝てば優勝だという大事な試合で源平(彩南)が落ち着いて決めてくれました。一人ひとりがやるべきことをやってくれて優勝できました」 大会期間中、何度も聞こえてきたのは「こういうときだからこそ、きちんと勝たないと」というフレーズだ。また、選手からも「絶対に勝たないといけない」「負けちゃいけないので」という、聞きようによっては切羽詰まっているかのように受け取れる言葉が何度も出てきた。 1日目の試合がすべて終わり、決勝進出が決まったあと、試合に対してやりづらさはあるかという問いに対してリオ五輪63kg級金メダリストの川井梨紗子(23、ジャパンビレッジ)は、自分が置かれている状況に対して感じていることを、精一杯の丁寧さで答えてくれた。 「いつもより、まわりの目が気になる試合です。見られているなと思います。話した言葉がどう伝えられるのかもわからないし、マスコミの皆さんが怖いです」 最後は苦笑まじりに話していたが、テレビやネットで飛び交ういろいろな情報が見えたり聞こえたりするたび、自分の足下を揺るがされるような恐怖に似た感覚を味わったのだろう。そんなときワールドカップという大会が現実に目の前に迫っていたことは、かえって幸いだったのかもしれない。試合に向かって調整をし、勝つことに集中する時間を過ごさねばならなかったからだ。