女子レスパワハラ問題はどんな影響を与えたのか?「メディアが怖い」の声も
「選手もコーチ陣も一緒になって盛り上げて、雰囲気はすごくよい状態で戦えました」と大会を通じて、日本チームの状態はとてもよかったと笹山監督は振り返っていた。川井梨紗子も「女子レスリングは個人種目なんですけど、まとまっている、本当にいいチームだなと思っています」と語っている。 現在、情報が錯綜ぎみのパワハラを巡る問題について、今大会中、日本レスリング協会幹部からは一切の発言がなかった。公式な会見だけでなく、ぶら下がりと呼ばれる、会場入りや退出時に記者が囲んで取材を試みる場面でも、コメントと呼べる類いのものは一切、発せられなかった。その影響もあって、大会会場に設定されている取材ゾーンに現れる選手に関連の質問が投げかけられることになったが、驚くのは、選手もコーチ陣も堂々と、誠実に答えてくれたことだ。 「まわりがどう言おうと、私は(栄)監督に強くしてもらった。本当に、私が言えるのはこれだけです」(川井) 「影響はありました。でも、コーチ陣がそちらに気を取られたら選手が試合に集中できない。勝つことだけを考えられるように気を配りました」(笹山監督) 逆に、その話題に触れることすら忌避していたのは、チームではなく周囲の関係者だ。ピリピリした雰囲気がそのまま伝わり、試合を控えた選手達とは別種の緊張感を漂わせていた。 日本が決勝の中国戦を6勝4敗で終え4連覇を確定させると、息を呑んで勝負のゆくえを見守っていた関係者からは「この窮状が逆に、選手とコーチの集中力を高めてくれたかもしれない」という声も聞こえてきた。人間万事塞翁が馬、何が福をもたらすかわからないということか。 厳しい状況の中でのワールドカップ4連覇は喜ばしいことだ。だが、これで、パワハラ問題が解決し、レスリング界が抱える問題のすべてが終結したわけでもなんでもない。 たとえば代表選考基準についても日本のレスリングは対外的に丁寧に説明する努力をあまりしてこなかった。2位ではなく3位の選手を選ぶ理由や、階級を変更して出場するのはなぜなのかなど、自分たちにとっては自明のことかもしれないが、きちんと根拠を提示しながら代表選手の発表をする必要があるのではないか。 今回も、その部分の説明不足で、栄氏の娘である栄希和(24、ジェイテクト)の選出に様々な憶測やバッシングの声があった。 ずっとレスリングに携わる人たちにとっては常識かもしれない考え方であっても、競技関係者以外に理解を求める努力は続けたほうがよいだろう。そんな面倒なことを、誰が知りたいのか? と考えるかもしれない、けれども、そういった小さな種まきが、競技に対する将来の理解者を増やしてゆくはずなのだ。 (文責・横森綾/フリーライター)