外国人技能実習制度の見直し:人権保護を最優先に選ばれる日本に:人手不足対策を超えて日本経済の中長期の潜在力向上の視点も
「転籍」の制限緩和が大きな争点に
外国人技能実習制度の見直し議論が、有識者会議で進められている。従来の技能実習制度は、外国人実習生の人権が十分に尊重されないなど、多くの問題を抱えていたことから、制度の見直しが必要であることは疑いがない。 それに合わせて、同制度の目的も、従来の「人材育成による国際貢献」、「途上国への技術移転」から、「人材確保と人材育成」へと修正し、それに合わせて制度の名称も「育成就労」とする案が検討されている。 制度見直しの中で、議論が紛糾したのが、3年間の技能実習制度の中で、他の企業に転職する「転籍」の条件である。有識者会議事務局が10月に示した案では、希望者には1年を超す就労と、日本語と技能の基礎試験合格を要件に、同業種内での転職を認めるとしていた。 ところが11月15日に示された修正案には、特定の就労分野で2年目の待遇改善を条件に転職制限を「最大2年」に延ばせるという例外規定が経過措置として盛り込まれたのである。(1)人材育成の観点から同一企業での就労を継続させる必要があること、(2)1年経過後は待遇を向上させることを要件にして、政府が分野ごとに「2年を超えない範囲」で転籍制限期間を延ばせるとしたのである。 修正の背景には、「早期の転職では、企業が技能習得に投入する投資が十分に生かされない」、「都市部に人材が流出してしまう」との懸念が企業側、そして自民党内で高まったからだ。 これに対して、日本労働弁護団は、別の企業などへの「転籍」を制限してきたことが人権侵害の温床になってきたなどとして「転籍」について無用な要件を設けないよう求める緊急声明を出した。
転籍の自由を認めることが実習生の人権擁護、職場環境の改善につながる
日本労働弁護団が指摘するように、従来、転籍の制限が外国人実習生の人権が侵害される温床となってきた経緯を踏まえると、できる限り制限を緩めることが重要であり、それが技能実習制度見直しの中核であるべきだろう。 技能実習制度は「人材育成による国際貢献」、「途上国への技術移転」を建前にしていたが、実態は安価な労働力の確保手段に使われていた。低賃金、長時間労働、雇用者の暴力など人権侵害が横行していたのである。そうした中で、実習生が原則3年間は勤務先を変えられないことが、人権侵害をさらに深刻なものとしていたと考えられる。人権侵害から逃れるために失踪し、不法滞在者となった実習生は昨年も9,006人にも上った。転籍制限を大幅に緩和することが人権擁護の第一歩である。 転籍するかどうかは、実習生の希望を最優先とすべきだが、企業での技能の習得と給与、労働時間などでの処遇が十分に満足できるのであれば、実習生はそもそも途中で他企業への転籍を希望しないはずだ。転籍の自由を認めることが、市場原理を通じて実習生の人権擁護、職場環境の改善につながるのである。 制度の見直しを受けて実習生の処遇を高めることや、技能、日本語習得を助けることなどは、企業にとっては負担となる。企業はこれを、人手不足問題への対応を進める対価と考えるべきではあるが、過大な負担によってより使いにくい制度とならないよう、見直しの際には設計に配慮し、また必要な支援は国も検討すべきだろう。