外国人技能実習制度の見直し:人権保護を最優先に選ばれる日本に:人手不足対策を超えて日本経済の中長期の潜在力向上の視点も
地方から都市への人材流出懸念は過大か
また、転籍要件の緩和によって人材が、高い賃金に惹かれて地方部から都市部に流出するとの懸念もあまり根拠がないことだろう。最低賃金、そして実際の賃金水準に地域間格差があることは確かである。しかしそれは、生活費の地域間格差と対応している面があり、賃金水準が高いことだけで、人材が地方から都市部に移ることにはならないだろう。 労働需給を示す有効求人倍率は、2023年9月に全国平均で1.28倍であるが、地域間の格差はそれほど大きくない。賃金水準が高い東京の有効求人倍率は1.18倍と全国平均と比べてそれほど低いわけではなく、人材確保が非常に容易な環境とは言えない。他方で、都道府県の中で最も有効求人倍率が低く、人材確保が容易なのは、地方部の北海道の1.08倍である。 しかし、11月24日に有識者会議が出した最新の案では、強い批判を浴びた転籍要件の再厳格化は撤回された。一部分野を除けば、原則1年の就労の後に、一定の条件の下で転籍が可能となる。
実習生によって選ばれる日本、選ばれる企業となることが重要
1993年に実習生制度が創設された時とは、経済環境は大きく変わっている。経済の成長力低下を背景に、日本はその後30年間は賃金水準がほぼ横ばいに留まった。さらに過去10年では円安が進行したことで、外国人労働者にとって日本の賃金水準の魅力は大きく低下したのである。アジアからの外国人実習生も韓国など日本以外の国に流れる傾向が強まっている。 そうした中で、日本が外国人実習生を集め、さらに労働力として確保していくためには、技能習得をしっかりと支える企業側の努力が欠かせない。それは企業にとっては負担ともなるだろうが、人材確保には必要な対価と考えるべきであろう。 実習生を受け入れる制度は、実習生によって選ばれる日本、選ばれる企業となることを優先に考え、人権、処遇の面で実習生に十分に配慮したものに見直していく必要がある。その際に重要なのは、転籍の自由など「市場原理」を最大限導入することだ。 さらに高額の仲介料で実習生に過剰な債務を負担させる悪質なブローカーを排するよう、国の一段の積極的な役割も期待される。 実習生の転籍の要件や特定1号への移行の要件に、一定水準の日本語検定の習得が設定されている。しかし、就業をしながらの日本語習得は容易ではなく、それが実習生、外国人労働者の過度な負担とならないように配慮する必要があるのではないか。 実習生、外国人労働者側に日本語習得を通じて日本社会に馴染んでいくように求めるばかりでなく、行政などが外国語サービスを拡大させることで、外国人を社会に取り込む、共生を図る取り組みもまた重要だ。