高齢者の年齢を引き上げる?働き手拡大に期待する経済界と政府、「死ぬまで働かされる」と反発も
高齢者は何歳からなのか―。65歳以上とされることが多い高齢者の年齢を引き上げるべきだとの声が経済界から上がっている。少子高齢化に伴う人口減少で働き手が不足することへの危機感が背景にある。ただ、「死ぬまで働かされる」といった不安も広がり、政府内で提言を政策に直接反映させる動きは目立っていない。 【写真】日本の成長率、実は「G7首位」?「人口減少の中、驚くほどうまく対処している」 課題は、過剰な「おもてなし」
一方、政府は財政や社会保障を長期で持続させるための条件として、70代前半の労働参加率が2045年度に5割を超える姿を描く。高齢者の就労を巡っては待遇の悪さや頻発する労災などの課題が山積しており、意欲のある高齢者が気持ちよく働くための環境整備が急務だ。(共同通信=李洋一) ▽「5歳延ばす検討をすべき」と経団連会長 高齢者となる年齢は法律によって異なるものの、一般的には65歳以上とされる。仮に年齢引き上げの動きが出てくれば、60歳が多い企業の定年や、原則65歳の年金受給開始年齢の引き上げにつながる可能性がある。 見直し論は、政府が6月に決めた経済財政運営の指針「骨太の方針」の議論の中で注目を集めた。骨太の方針を議論する経済財政諮問会議で、経団連の十倉雅和会長ら民間議員が「高齢者の定義を5歳延ばすことを検討すべきだ」と提言。経済同友会の新浪剛史代表幹事は7月に「高齢者の定義は75歳でいい。働きたい人がずっと働ける社会にしたい」と述べた。
▽人口の減少は「国難」 こうした声が上がるのは、人手不足の解消が念頭にある。生産年齢人口と呼ばれる15~64歳の人口は1995年の8726万人がピークで、2020年には7509万人まで減った。国立社会保障・人口問題研究所の見通し(出生中位推計)によると、2032年に7千万人、2043年に6千万人、2062年に5千万人をそれぞれ割る。 一方、65歳以上の人口は2020年が3603万人で、2043年に3953万人に達するまで増加が続く。諮問会議は人口減少について、経済成長を下押しする「国難」と位置付けており、民間議員からは「(高齢者の定義を)思い切って10歳上げて、生産年齢人口と捉え直すのも一つの手だ」(BNPパリバ証券の中空麻奈グローバルマーケット統括本部副会長)との意見が出た。 ▽定義自体がナンセンス しかし、骨太方針に提言がダイレクトに反映されることはなかった。SNSで「死ぬまで働かされる」「悠々自適の老後は存在しない」などとネガティブな反応が目立ったこともあり、時期尚早と判断された。10月の衆院選でも目立った争点にはならなかった。 当事者は具体的にどのように受け止めたのか。お年寄りの街として知られる東京・巣鴨で取材した。