高齢者の年齢を引き上げる?働き手拡大に期待する経済界と政府、「死ぬまで働かされる」と反発も
シンクタンク「100年生活者研究所」は、巣鴨で営業するカフェで高齢者へのヒアリングを重ねている。大高香世所長は「元気に年を重ねて、100歳まで生きる意欲のある人は年齢で自分を縛らないのが特徴。そういう方にとっては定義自体がナンセンス」と語る。一方で「定義を引き上げた方がより年齢を意識しない人が増える」とも語った。 ▽「正面から国民に問うべき」 カフェの常連で、定年退職後は執筆活動に力を入れる愛知県の70代男性は「自分が高齢者だなんて思わない」と語る。定義の引き上げについては「根っこの心持ちの部分が不純で、不信感しかない」という。社会制度の維持のために高齢者がより多く働くことや、年金の受給開始年齢が遅れるたりすることについては議論の余地があるとしつつ「だったら正面から国民に問うべきだ。定義だなんだと回りくどいことを言うからだまされているような気持ちになる」と指摘する。 同じく常連で東京都の山中泰政さん(74)は「高齢者が働くべきだと言うなら敬意を持つべき」と語る。もうじき、75歳以上の「後期高齢者」に分類されるが、呼び方に違和感があるという。「もうすぐ人生が終わるかのようなレッテルを貼られる。この際、気持ちが明るくなるような呼び方を考えるべきだ」
▽70代前半の労働参加率56% 政府は骨太方針で定義変更に言及しなかったものの、高齢者のさらなる就労拡大が重要と明記した。 理屈はこうだ。人口減少の加速が本格化する2030年代以降も財政や社会保障を持続させるためには、実質国内総生産(GDP)の成長率が1%を安定して上回る必要がある。実現のためには成長分野に人材や資金を集中させて企業の生産性を向上させたり、低い出生率を改善したりすることに加え、より多くの高齢者に働いてもらう必要がある。 政府は高齢者の就労をどれぐらい増やしたいのか。骨太の方針に明記されていないものの、内閣府は7月に詳しい試算を公表した。これによると、70代前半の労働参加率が2045年度に56%程度となることを念頭に置いている。働く高齢者は年々増えており、23年度の労働参加率は34%に達した。ここからさらに22ポイント伸びる計算だ。 内閣府幹部は「共働きが当たり前の世代が年を重ねることにより、働く高齢者は今よりも増える」と見通す。一方で「あくまでも試算で、無理やり働いてもらう訳ではない。意欲のある高齢者が働きやすい環境を整えることが今後の課題だ」と付け足した。