高齢者の年齢を引き上げる?働き手拡大に期待する経済界と政府、「死ぬまで働かされる」と反発も
▽進む環境改善、80歳超で再雇用も 雇用環境は徐々に改善に向かっている。70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務になったこともあり、企業が定年年齢を引き上げている。 内閣府が約2千社から回答を得た3月の調査によると、定年を61歳以上とする企業は32・0%、勤務可能年齢の上限を71歳以上とする企業が20・2%で、それぞれ2019年調査から3・6ポイント、6・1ポイント上昇した。 家電量販店大手のノジマは80歳を超えた従業員も再雇用の対象としており、高齢者の新規採用もしている。イオンモール座間店(神奈川県座間市)の河島幸三さん(71)は、百貨店を定年退職した2018年に転身した。前職での接客経験を生かしてエアコンやテレビなどを販売しており「高齢のお客さまにとって気安い店員で、信頼していただいている」と自己分析する。 ▽学生バイトよりも低い給料 現役世代と比べて低いことが多い賃金も改善の兆しがある。内閣府の3月の調査によると、再雇用時の賃金水準が定年前の8割程度以上とした企業の割合は2019年調査より15ポイント高い39%だった。人手不足の企業ほど引き留めや士気向上のために待遇を改善しているという。 ただ、縮小傾向にあるとはいえ、今も賃金格差は残っているのが事実だ。定年退職後に千葉県の結婚式場で働き始めた70代男性は「給料は最低賃金並みで、最近入った学生のアルバイトよりも低い」と漏らす。現場の仕切りを任されることもあるが、それでも新人と比べて賃金が低いのは「若い世代より働く場所の選択肢が少なく、足元を見られているのではないか」と話した。
▽最低賃金の対象から外れる個人事業主 最低賃金が保証されないケースもある。全国に67万6756人(2023年末時点)の会員を擁するシルバー人材センターが提供する仕事だ。 多くの高齢者が植木の剪定や除草、清掃などに従事しているが、労働者ではなく個人事業主という立場のことがほとんどで、最低賃金法の適用から外れる。全国シルバー人材センター事業協会の担当者は「最低賃金が目安にはなっている」と説明する一方で「社会参加による生きがいの充実が事業の目的で、たくさん稼ぎたい方にはハローワークに行くことをおすすめする」と語る。 同一労働同一賃金の徹底、デジタル分野などのリスキリング(学び直し)がさらなる就労拡大の鍵を握るのは間違いなさそうだ。日本総合研究所の藤波匠上席主任研究員は「経済を成長させ、能力や意欲のある高齢者が納得できる付加価値の高い仕事を増やす必要がある」と指摘した。