手加減なしの面白さ、オーストリア映画を渋谷で特集…ブラックな娯楽作も珠玉のドキュメンタリーも
オーストリアの芸術と聞いた時、クラシック音楽や19世紀末絵画を真っ先に思い浮かべる人が多いだろう。でも、今週末から開催される「オーストリア映画週間2024 Our Very Eye-揺るぎなき視線」(6月29日から7月5日まで、東京・渋谷のシアターイメージフォーラム)で上映される7つの個性的な作品を見たら、頭の中がきっとアップデートされる。すべて日本初公開の新作で、どれも手加減なしの面白さだ。
結末にりつ然
上映作品のうち、多くの映画ファンが注目しているはずの作品が、2023年のカンヌ国際映画祭のコンペ部門に出品されたジェシカ・ハウスナー監督「クラブゼロ」。描かれるのは、名門校で学ぶ10代の少年少女が、新任の栄養学教師(ミア・ワシコウスカ)の極端な教えにのめりこんでいくさま。「ハーメルンの笛吹き男」に相通ずる雰囲気も宿す映画で、端正な映像で描かれる学校・家庭生活の向こう側に、底知れない深淵がぱっくり広がっている。
オーストリアはミヒャエル・ハネケ、ウルリヒ・ザイドルといった異能の現代映画作家たちを生み出してきた。既に国際的な評価を確立しているハウスナーはハネケに師事した人だが、今回の特集ではザイドルの流れをくむ監督たちの作品も2本上映される。「デビルズ・バス(仮題)」(監督:ヴェロニカ・フランツ、セヴリン・フィアラ)と、「我来たり、我見たり、我勝利せり(仮題)」(同:ダニエル・フーズル、ユリア・ニーマン)だ。いずれもザイドルが製作を務めた。
「デビルズ・バス」は、18世紀の農村に生きる若い女の究極の選択を、手加減なしで描くダークな一本で、歴史の闇に沈んでいた女たちの存在をショッキングにあぶり出す。監督の一人、フランツはザイドル作品の脚本も手がけている。
「我来たり、我見たり、我勝利せり」は、現実を鮮烈に撃つブラックな娯楽作。不公平がまかり通る社会をあっけらかんと戯画化したファミリードラマで、起業家として巨万の富を得た男のやりたい放題の果てに待つ結末にりつ然とさせられること請け合いだ。スウェーデンのリューベン・オストルンド監督による「逆転のトライアングル」とどこか重なる世界観の作品だが、救いのなさは、こちらのほうが上かもしれない。