ファンとの距離が裏目に、小金井刺傷事件にみる身近なアイドル警備の難しさ
ネットがファンのストーカー化を加速
「冨田さんのケースもそうだが、SNSなどネットでのコミュニケーションがストーカーの潜在的リスクの温床となっている」と頭を抱えるのは、東海地区の芸能プロデューサー。宣伝費をかけられないローカルな事務所にとって、タレント自らコストをかけずに情報発信でき、ファンとのコミュニケーションも可能なツイッターなどネット上のツールは、いまや欠かせないものだ。 ところが、その気軽さゆえに、ファンの側がタレントに恋愛感情を抱いてしまいやすいという面もある。最初は応援しているつもりが、タレントと身近にコミュニケーションをとるうちに、友達感覚に、やがては恋人感覚に陥ってしまうのだ。 自身がプロデュースするアイドルグループのメンバーが、本来禁じられているツイッターのDM(ダイレクトメッセージ)で連絡先を交換、無断で会っていたケースがあるという。アイドルはファンとの、ファンはアイドルとの距離感を、お互いに見誤っている形だ。 最悪、ファンはコンサートはじめすべてのイベントから出入り禁止となり、アイドルは謹慎や解雇など双方にとって不幸な結果を招く。毅然として対応しないと、真面目にルールを守っているファンと他メンバーにしめしがつかないという側面もあるのだ。結果、ゴールインして今は一般人として平和な家庭を築いている、というハッピーエンドも場合によってはあるそうだが、芸能活動的には果たしてハッピーエンドと言い切っていいものかどうか。
完璧な警備は不可能 性善説に頼るしかない運営事情
昨年、名古屋ではあるアイドルグループがメンバーの寮として借りていたマンションに、暴漢が侵入するという事件が起きた。サイン会終了後、マネージャーがメンバーをマンションに送り届けたところ、後から駆け込むようにエレベーターに乗り込んできた男がいた。男は7階で降りたため、マネージャーはメンバーを部屋まで送らず、部屋のある9階のエレベーター前で分かれた。 ところが、一人になったメンバーが自室へ向かうと、外の非常階段を駆け上がる足音がし、先ほど7階で降りたはずの男がものすごい勢いで廊下を駆け寄ってきたのだという。そして廊下の壁に押しつけられたが、悲鳴を上げると逃げて行ったという。 「後日、近隣の監視カメラの映像をもとに犯人は逮捕されましたが、もし部屋のドアを開けた後だったら無事だったかどうか」(プロダクション関係者) まさに危険と隣り合わせの芸能活動。完璧な警備体制を整えようと思えば、コストの高さでグループ運営自体が採算の合わないものになる。基本的にファンは節度を保ってタレントを応援するものだという性善説に頼って運営を続けて行くしかなく、これといった防止策はないのが現状だ。 芸能界全体がタレントとの距離の近さを売りにするのではなく、ステージなり作品なりといった”芸事”で集客できる、原点ともいえるスタイルに回帰するしかなさそうだ。しかしそれでも、昔からこの類いの事件があったように、100パーセントは防げない。自らを商品とする芸能の仕事の難しさを改めて感じる。