羽生の世界最高得点の裏に4回転の進化
GPファイナルで自らの持つ世界最高得点を更新して史上初のV3を達成した羽生結弦(21歳、ANA)の衝撃が収まらない。朝のワイドショーから夜のスポーツ番組まで、手をかえ品をかえ、羽生の頭の先から足の先まで報道している。SP、110.95点、FS、219.48点、合計得点330.43点は、もはやライバル達が満点演技をしたとしても追いつかない“神の領域”にある。 ではスケートカナダではパトリック・チャンに苦杯をなめた羽生がNHK杯からGPファイナルに向けて世界最高得点の更新を続けることができた理由はどこにあるのか? フィギュア指導者の一人は、すべては4回転ジャンプの進化に起因していると言う。 「昨季やスケートカナダとの映像を見比べてもらえるとよくわかると思いますが、4回転ジャンプの軸が細くなっています。頭の先からピンと糸で天井から引っ張ったようなイメージですね。当然、踏み切りのタイミングがよく、高く、回転が速く、しかも、ぶれないという理由で軸が細くなるわけですが、そうなると成功率が高まります。幅にもつながり着氷から次への流れにもすべての余裕が生まれGOE加点につながります」 映像を見直すと、確かに羽生のジャンプの回転軸は、まるでシャープペンシルの芯のように細い。ジャンプに高さがなく、回転スピードが落ちたり、ぶれたりすると、軸が太く見えるものだが、羽生のジャンプの軸は、スリムに見え、高く、幅もあり、ジャンプの前後の流れも美しい。質のいいジャンプだ。
羽生はGPファイナルでは、SPで冒頭の4回転サルコウ、4回転トゥループ+3回転トゥループの連続ジャンプを続けて成功。それぞれ出来映え点(GOE)が「3.00」と満点評価だった。FSでも冒頭の4回転サルコウ、4回転トゥループを成功させ、出来映え点は、ふたつのジャンプに「3.00」、疲れが出るはずの演技後半のトリプルアクセル+ダブルトゥループの連続ジャンプもノーミスで終えただけでなく、出来映え点には、また満点の「3.00」がついた。 ジャンプに関する出来映え点の評価は、入る前の動作、踏み切り、高さ、回転スピード、空中姿勢、跳び幅、着氷、着氷後の流れの8つに渡る各要素だけでなく、全体のバランスも考えて、9人のジャッジがマイナス3からプラス3までのグレードで判断する。つまり満点の「3.00」とは、非のうちどころのないジャンプの理想形を示す。