飲み水の規制「据え置き」に。根拠はなぜか8年前の海外のデータ…世界から取り残される日本の実態とは
動物実験の根拠データは「採用できない」とされていた8年前のものに
日本が据え置くとみられる「PFOSとPFOAの合計50ナノグラム」が根拠としているのは、EPAが2016年に示した動物実験のデータだ。 動物実験と聞くと、思い出すやりとりがある。 2019年春、東京・多摩地区で高濃度のPFASを含んだ飲み水が提供されていたことを突き止めた後のことだ。これ以上PFASに汚染された水が飲まれないように目標値を設けて管理する必要があるのではないか。厚労省の担当者にそう投げかけると、次のようなセリフが返ってきた。 「欧米で多くの研究が行われているとはいっても、あくまで動物実験によるものです。ヒトの疫学研究とは異なるので、そのまま採用することはできません。そのため、今後も知見の集積に努めていきます」 ところが、厚労省は直後に方針を一転させ、動物実験の結果から導き出した暫定目標値を設けた。その理由は明かされず、情報開示請求しても「不存在」とされたのだった。 その後も、日本ではヒトを対象にした疫学研究はほとんど進まず、みずからデータを蓄積することもなかった。一方、海外ではさまざまな研究が積み上げられ、規制強化が進められてきた。 今回、目標値を見直すにあたって、みずからデータをもたない日本は海外の研究成果に頼るほかなかった。専門家が精査したところ、海外の疫学研究の結果は「評価が一貫していない」として採用せず、2016年の動物実験の結果を根拠に飲み水の指標を据え置く方向性が確認されたのだった。 その理由を一言でいえば「国内のデータがない」ということに尽きる。その結果、飲み水のPFAS規制をめぐる日本の時計は8年前で止まったままになっているのだ。 それどころか、「一度決めたら、数年は変えるべきではない」(水質検討会の委員発言)とされるため、当面、「合計50ナノグラム」で固定されることになるのだろう。
「暫定目標値」から「基準値」へ移行
ただ、水質検討会は、数値は変えないものの、いまの暫定目標値に代わり基準値とする、という。水質管理における分類を、現在の「水質管理目標設定項目」からもっとも厳しい「水質基準」に格上げすることで、水道を提供する市町村などに遵守を義務づけられるからだ。 PFOSとPFOAが水質基準に位置づけられれば、地下水や川についても環境基準ができ、それに基づいて工場などの排出基準も設けられる。それが一定の歯止めになるかもしれない。 でも、PFOSは2010年、PFOAも2015年までに国内では使われなくなっている。この二つに代わって使われている物質に網をかけなければ、汚染は見えないまま水道水から人々の口に入り続ける。