「戦後70年談話」の閣議決定は見送り? 安倍首相のジレンマ
安倍晋三首相が今夏に出す「戦後70年談話」をめぐり、閣議決定を見送る方向で調整されていると報じられている。また「終戦の日」である8月15日より前倒しする案も浮上しているようだ。過去の村山・小泉談話はいずれも閣議決定され、8月15日に発表されてきた。今回の談話をめぐる報道をどう見るか。戦後50周年記念事業などに内閣外政審議室審議官として携わった美根慶樹氏に寄稿してもらった。 村山談話ってなぜ話題になるの?「植民地支配と侵略」
村山・小泉談話では「反省」「お詫び」表明
安倍首相は2012年末、政権に復帰したころから、戦後70周年には首相としての談話を発表する考えを表明しており、その後、国会答弁などで50周年の村山談話や60周年の小泉談話を「全体として引き継ぐ」と説明してきました。 村山談話と小泉談話では、日本が先の大戦で近隣諸国などに対し、「植民地支配と侵略によって」「多大の損害と苦痛を与えた」ことについての「痛切な反省」と「心からのお詫び」の気持ちが表明されています。しかし、安倍首相は、これらのうち、どの部分は継承し、どの部分は継承しないか、明確な説明をしていません。 安倍首相は「戦後レジームからの脱却」が持論です。戦後に作られた制度や秩序は本来の日本のあるべき姿を歪めており、是正する必要があるという考えであり、日本国憲法についても改正が「不可欠」だと主張しています。また安倍首相は、「侵略」の定義は定まっておらず、先の大戦における日本の行為を侵略であったと断定するのは適当でないという考えです。 このような事情から、安倍首相は村山・小泉両談話において重要な表明である、日本は近隣諸国を「侵略」したという認識を引き継がないのではないかという疑問を持たれています。
「侵略」言及せず閣議決定避ける?
安倍首相は談話の内容について有識者の意見を徴するため懇談会(21世紀構想懇談会)を設置し、同懇談会は6月25日に審議を終えました。そこで議論がもっとも白熱したのは日本の行為を「侵略」と位置付けるかどうかであり、「侵略」であったとする意見が相次いだ一方、侵略の定義は明確でないとして、「侵略という言葉の使用は問題性を帯びる」との声も出たと報道されました(26日付『読売新聞』)。 懇談会の議論の結果を談話に取り入れるか、取り入れるとしてもどの程度か、決まっていません。菅官房長官は6月22日の記者会見で、「懇話会でのさまざまな意見を聞いた上で、最後は首相を中心に政府として判断する」と述べています。 「談話」の意味やその発表要件は法律で定義されていませんが、首相として見解を表明しておいた方がよい重要問題について談話が発表されるのが習わしです。首相限りで発表されることもありますが、談話が閣議決定されると内閣全体が了承したことになり、重みが増します。村山・小泉両首相談話は閣議決定されました。 しかし、安倍首相の談話については閣議決定しない考えがあるといううわさが出ています。そのことを質問された菅官房長官は、「まだ何も決まっていない」と答えました。これが日本政府の公式な立場です。 このようなうわさが出るのは、安倍首相には「侵略」の意味などについてこだわりがあるからのようですが、「侵略」への言及を避けた談話については、内閣の他の構成員(国務大臣)が賛成するか必ずしも明確でありません。また対外的にも問題がありうるからです。