鮮度の心配はもはや不要? 「輸入野菜」が急速に進化している背景
農林水産省が発表した「野菜をめぐる情勢」(令和5年7月)によると、令和2年の野菜の国産生産量は1144万トン、輸入量は298.7万トンで、輸入野菜が全体の約2割を占めた。また、輸入量のうち生鮮野菜の割合は23%で67.9万トンとなっている(そのうち、玉ねぎ、カボチャ、人参、ネギ、ごぼうの5品目で約7割)。 この量を多いと見るだろうか、意外に少ないと見るだろうか。 「輸入野菜」と聞くと、「新鮮ではない」「残留農薬が多い」などのイメージを持つ人もいるが、青果の輸入や海外市場の開拓などの事業を展開する富永商事の富永浩司社長によると、それは今や昔の話。輸入野菜は国産野菜より品質が高いものが増えているという。
外国の生産者は生産技術の向上に熱心
――統計を見ると、近年、野菜の輸入量は減少傾向にあるようですが、それはどうしてなのでしょう? 確かに数字だけで見ると輸入量が減っているのは事実ですが、以前に比べて輸送途中でダメになってしまう野菜が大幅に減っているので、日本の消費者の手元に届く量まで減っているわけではありません。 これは、輸入する際に野菜を運ぶコンテナの温度調節技術やCA輸送(CA=Controlled Atmosphere。庫内を低酸素、高二酸化炭素状態にすることで野菜を冬眠状態にして、鮮度保存期間を延長)が使われているため、歩留まり率が高くなっているからです。そのため輸入量は減っていても、国内での消費量はむしろ増えていると思います。 スーパーのような量販店は国産野菜を仕入れることが多いですが、全体的なマーケットとしては輸入野菜のほうが伸びています。円安の影響で輸入野菜の価格が国産野菜に比べて高くなっていますが、それでも輸入野菜のほうが売れているという感覚が私にはあります。 ――輸入野菜は国産野菜より品質が高いものが多くなっているということですが、それは本当なのでしょうか? 日本は数多くの小さい農家が生産しているので、野菜の品質がまちまちです。それに比べて輸入野菜は企業が大規模な農場で生産していて、1つの野菜につき日本に輸出している企業は5社前後しかありません。ですので、生産者の顔がよく見えるのは、実は国産野菜よりも輸入野菜のほうなんです。 また、昔の中国や韓国は、輸出する際に手前のコンテナにだけ品質のいいものを入れて、あとは質の低いものを入れてごまかすということをやっていましたが、今はどちらの国も野菜生産の技術力が日本より上になっているので、そういったことはやらなくなっています。 正直、輸入野菜の品質が上がっていて、国産野菜はそれに負けてしまっているのが現実です。 ――野菜生産の技術力が上がっているというのは、どういうことなのでしょう? 簡単に説明するのは難しいのですが、例えば日本の野菜は基本的に国内消費がメインなので、採れてから1週間以内に消費されればいいという考え方で生産されています。 一方の輸入野菜は船で数週間かけて運んでくるので、収穫から2~3週間たっても採れたて同様の品質になるように生産しています。しかも、それを大量に生産してコストを下げています。 このように、外国の生産者が高品質のものを生産するための技術向上に熱心に取り組んでいる一方で、日本はいまだに30年前と同じやり方で野菜作りをしています。 先ほど、1つの野菜につき日本に輸出している企業は5社前後しかないと言いましたが、これは、いい加減な野菜作りをしてきた企業はすでに淘汰されていて、この5社は常に技術革新をして生き残ってきた技術力の高い企業ばかりなのです。 例えばアメリカの農業などは、政府からの補助金もなしに自力で勝負をしていく世界なので、淘汰されて残る会社は多くありません。玉ねぎ農家はワシントン州の一番大きい産地でも5、6社しか残っておらず、どこも大規模で、そこの農業主は大手企業のオーナーのような存在になっています。