三菱UFJ、老舗の粉飾20年も見逃す 金融庁が全銀行の融資点検へ
金融機関はおしなべて不正に気付かなかった。地域経済の縮小に苦しむ地方銀行は、東京での融資機会を逃したくないという心理も働く。粉飾は金融機関が判定するが、確証がなければ外部に伝えることはない。コンプライアンス(法令順守)が浸透し、現場で融資先の情報を交換する対応も難しい。 東京商工リサーチは、堀正工業が一度も決算公告を官報に載せたことがなかった点を挙げながら「(堀正工業の)秘密主義とコンプライアンス意識の欠落、そして横の連携がとりにくい金融機関の慣例が発覚を遅らせ、歴史に残る粉飾倒産劇を招いた」と指摘した。 ●「メインバンクという関係性が影響した」 金融庁幹部は「堀正工業のメインバンクが三菱UFJ銀行だったことも、発覚が遅れる要因となった」と見る。邦銀トップが寄り添い続けたという事実が、他の金融機関の審査部門にとって格好の安心材料として機能したことは想像に難くない。多くの金融機関が堀正工業の債務者区分を「正常先」と分類し、無担保・無保証で融資したケースもあったという。 三菱UFJ銀行は問題が発覚した後に、堀正工業から届いた過去の決算書を細かく分析した。適正なデータがない中で作業は難航したが、確かに不自然な数字は見つかった。例えば損益計算書では、利益率が長期にわたって変動していなかった。 三菱UFJ銀行の融資審査関係者は「細かい改ざんを重ねられて気付きにくかったが、メインバンクという関係性の影響で甘く見てしまった側面もある」とうなだれる。抜本的な再発防止策を打ち出すことは難しく、「健全な猜疑(さいぎ)心でチェックする」という従来通りの姿勢を徹底するよう現場に周知するしかなかった。 帝国データバンクによると、粉飾決算や業法違反、脱税などのコンプライアンス違反をきっかけに倒産した企業は、23年度に351社あった。過去最多だった前の年度から50 社も増えた。その中には金融機関が「優良先」と認定して融資を続けてきた企業も珍しくない。 金融庁の屋敷氏は「終了する時期を決めず、継続的に点検していく」と語る。今回の点検が、長い目で見て金融監督の強化につながっていくのか、まだ先行きは読みづらい。ただし金融機関が審査体制のブラッシュアップを怠るようなら、融資の引き締めに追われるような展開が現実味を帯びてくる。
鳴海 崇