三菱UFJ、老舗の粉飾20年も見逃す 金融庁が全銀行の融資点検へ
あまりにも融資に緊張感が欠けている――。全国の銀行に対して「疑惑の目」を強めた金融庁が、2024年に入って以降、点検作業を急ピッチで進めている。 【関連画像】銀行による融資の現状について「こんなところをチェックしていなかったのかと驚かされることが多い」と語る金融庁の屋敷審議官(写真:吉成大輔) 融資の審査手続きが妥当か、経営陣がリスクを認識できているか。メガバンクを入口にして、より高度な体制を構築するための対話を重ねつつ、立ち入り検査も辞さない構えでチェックに臨んでいる。 「日本銀行に預けると金利がマイナスになる環境が長引いたことで、潤沢な資金を取引先に貸し付けてきた銀行の融資規律が緩んでいた蓋然性は相応に高い」。こう説明するのは、金融庁で金融機関のモニタリング責任者を務める屋敷利紀総合政策局審議官だ。 日銀がマイナス金利を解除し、金利には上昇圧力がかかる。低金利下では顕在化しなかった不良債権問題が、再び首をもたげる恐れは無視できない。新型コロナウイルス禍を受けた実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)で債務を過剰に抱えた企業が多数あると見られる中で、貸出先の確保に苦戦する金融機関がルールを度外視した融資をいとわない可能性もある。 ●金融機関の弱みさらした倒産劇 金融庁は19年末、不良債権の区分を定めた「金融検査マニュアル」を廃止し、金融機関の自主性を尊重して一定のリスクを取った融資を促してきた。先祖返りか、それとも揺り戻しか。そう評価されかねない今回の対応だが、そのきっかけになったのは、ある老舗企業が起こした前代未聞の倒産劇だった。 「これほど大胆で悪質な手口は見たことがない」 ある地方銀行幹部がこう憤る不祥事が判明したのは、23年春だった。東京都品川区のベアリング専門商社、堀正工業が借入金の一部を返済できなくなった。借入先から状況の説明を求める声が寄せられる中で、6月23日に再度の資金ショートが発生。東京地裁に破産を申請した7月24日時点で、負債総額は約283億円に上っていた。 破産申立書などによると、堀正工業は遅くとも03年には粉飾決算を始めていた。業績が悪化したため、取引先に仕入れ代金の支払期日を延期するよう頼んだが拒まれ、金融機関からも追加融資を断られたからだ。 適切に処理すると赤字決算で、貸借対照表上は債務超過に陥る。このため黒字になるように売上高を水増しする不正に手を染めた。辻つまを合わせるために仕入れ額を調整し、借入金などの負債や貸付金なども書き換えた。実に50行前後まで増えていた取引金融機関には、それぞれ借入額が異なる決算書を提出していた。