「よく焼き」が口癖だった高倉健さん……亡くなるまで17年間パートナーだった女性がエッセー
数多くの映画に出演し続けた人らしく、体調を気遣って生ものは避けたという。口癖は「よく焼き」で、火の通ったものを好んだ。プロ意識がにじむ様々なエピソードも紹介している。
小田さん自身もこの約1年半、本著の作業を行う中、「食の大切さ」を改めて実感した。「高倉はきちんと食事をして体を整えていたことで、病気のときも、自らの意思で治療方針も選ぶことができ、最後まで会話を交わせたのかもしれません」
1996年、仕事で訪れた香港で偶然、高倉さんと出会った。約1年の文通を経て「縁の下の力持ち」になることを決断。それまでは全て外食で、夕食のみだった高倉さんに食生活を見直してもらおうと、料理を作り続けた。私生活は目立たず過ごしたいという意向に沿い、一緒に旅行や、外食をしたこともなかったという。
一方、自身の母が脳梗(こう)塞(そく)を患い、看病のために連日、病院に通った時期があった。その頃に知った、親族でなければ病室での看病は難しく、医師から詳しい病状を教えてもらうことは出来ないという病院の規則を、高倉さんに伝えたことがあったという。
しばらくして、自らの年齢を鑑(かんが)みた高倉さんからの提案で2013年に養女となり、最期まで高倉さんを支えた。「食べたいものや飲みたいもの、やりたいことを全て聞き、寄り添い続けられた。だから、思い残すことはないんです」
穏やかで上品な笑顔を浮かべ、カメラの前にたたずんだ。(文芸春秋、3300円)松田拓也