【日本三大裸祭り】:岩手「黒石寺の蘇民祭」・岡山「西大寺会陽」・福島「金沢の羽山ごもり」:裸体から立ちのぼる湯気…厳冬の熱い奇祭
芳賀 日向
日本全国に数ある祭りの中から、ジャンル別の御三家を取り上げるシリーズ企画。今回は、ふんどし一丁で肌をぶつけ合う、男くささ満点の「裸祭り」を紹介する。
生まれたままの姿で、神仏と向き合う
男たちがふんどし姿でもみ合う「裸祭り」は、常軌の外し方からして奇祭中の奇祭といっていいだろう。ゆく年の穢(けが)れをはらい、来る年の安寧を願うため、年末や正月など厳冬期に開催されるものが多い。清めの冷水を浴びた肉体からはもうもうと湯気が立ち上り、それが祭りの熱気となって見る者を引き込む。 神仏に願い事をする際、穢れのない生まれたての赤子と同じ姿になるのは古来の風習。儀式の前には肉食を絶ち、野外で水をかぶって身を清め、清浄無垢(むく)な肌をあらわにしてぶつかり合いを披露する。 中でも、正月行事「修正会(しゅうしょうえ)」を締めくくる裸祭りは、より激しい。万人の幸福を祈願する修正会は、最終日の「結願(けちがん)」に成就するとされ、その福を目指して争奪戦が繰り広げられるのだ。
岩手「黒石寺の蘇民祭」
(奥州市、2月第3土曜日) 古代の説話に登場する「蘇民(そみん)将来」は、神を助けたことで、末代まで災厄・疫病よけの加護を受けたと伝わる。それが民間信仰となり、平穏を祈って「蘇民将来の子孫」と紙に書いて家の門口に飾る風習が、全国各地に根付いていく。いつしか、厄よけの裸祭り「蘇民祭」へと発展し、岩手を中心とする東北地方で受け継がれてきた。 中でも数千人もの裸の男が集まるのが、岩手県南部の奥州市にある黒石寺(こくせきじ)。厄をはらい、無病息災と五穀豊穣(ほうじょう)をもたらす「蘇民袋」を奪い合う。袋の中には直径3センチほどの木片がぎっしりと詰まっていて、一つ一つが蘇民将来の力の宿った護符だという。かつては旧暦正月の結願の日だったが、現代では2月の第3土曜日(2024年は2月17日)に開催される。 氷点下の夜気の中で参加者は服を脱ぎ、川で身を清め、本堂の薬師堂と妙見堂を巡って祈りをささげる。この裸参りを3度繰り返した後、寺の鐘が大きく鳴り、本堂の前に積み重ねられた生木の松が焚(た)かれ、今度は炎の力でさらに身を清めていく。その間、男たちは「ジャッソー! ジョヤサ!」(“邪を正す”という意味)と叫び続ける。まるで、自らを興奮状態へと追い込むかのようだ。
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