【日本三大裸祭り】:岩手「黒石寺の蘇民祭」・岡山「西大寺会陽」・福島「金沢の羽山ごもり」:裸体から立ちのぼる湯気…厳冬の熱い奇祭
数え7歳の男児2人の参拝を合図に、本堂内で蘇民袋の争奪戦の火ぶたが切って落とされる。本堂を埋め尽くす裸が激しくぶつかり合うさまは、まさに肉弾戦だ。袋からこぼれ落ちた護符も、われ先に手にしようと裸体が群がる。 やがて戦場は雪の堂外へ。100人位に減った群衆は、2キロ先の最終地点までもみ合いながら進む。雪の坂道を転げ落ちたところで、最後に袋の首を握った者が「取り主」に決まる。そして熱戦の夜が終わり、男たちは服をまとって日常の世界へと戻るのだ。 黒石寺は千年以上にわたり一糸まとわぬ姿での蘇民祭を営々と続けてきたが、時世に従って2007年にはふんどし着用を義務化した。ついには争奪戦自体も2024年で最後を迎える。檀家(だんか)の高齢化など担い手不足が理由で、継続は困難だという。長い伝統にピリオドが打たれることを惜しむ声は大きく、いつの日か復活することを願う。
岡山「西大寺会陽」
(岡山市、2月17日) 岡山の西大寺では元旦から14日間にわたる修正会の結願行事「会陽(えよう)」で、裸の男およそ1万人が「宝木(しんぎ)」の争奪戦を繰り広げる。宝木とは陰陽一対となった20センチほどの香木を護符で巻いたもので、修正会の間に堂内で祈祷して福を込める。手にした者は1年の福を得られるという。 起源は1510(永正7)年。修正会で祈祷した牛玉(ごおう)の護符はご利益があるとの評判が広がり奪い合いになったという。以来、護符が破れにくいよう、木の棒に巻くようになった。参詣者は体の自由が利き、人波をすり抜けられてけがが少ない上に、行水もしやすい裸を慣例にした。
会陽当日、本堂はおびただしい数の裸体が密集して熱気が充満、身動きすらできない。夜10時に場内の明かりが消えると、前哨戦として柳の枝の束に護符を結んだ「投(なげ)牛玉」約100本が、天井近くの窓からまかれて争奪戦が始まる。続いて、真っ暗闇の中で本命の宝木2本が投下される。再び明かりがついた時には、群衆にもみくちゃにされて宝木の所在は分からなくなっている。強い薫香を手掛かりに裸の海に潜って探すしかない。 見事、勝ち取った者が堂外に出て「宝木が抜けたぞー」と声を響かせると、裸のぶつかり合いは終わる。1万人に2人の勝者は「福男」の称号を授かり、地元のヒーローとなるのだ。 寺でまわしと白足袋を購入すれば、誰でも参加できる。宗教儀式であることを肝に銘じて、心身を清めて挑んでほしい。
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