【日本三大裸祭り】:岩手「黒石寺の蘇民祭」・岡山「西大寺会陽」・福島「金沢の羽山ごもり」:裸体から立ちのぼる湯気…厳冬の熱い奇祭
福島「金沢の羽山ごもり」
(福島市、旧暦11月16日から3日間) 最後は、一般的には知られていないものの、原始信仰の神秘が感じられる裸祭りを紹介したい。福島市南部の金沢(かねざわ)地区にある黒沼神社には、神のお告げを聞く秘儀が千年前から伝わる。神が降りるのは、「羽山(はやま)さま」と呼ばれて畏れられる禁足地。入山できるのは年に一度、祭りの時だけだ。 山に入る男たちは3日間、神社近くのお堂にこもって身を清める。毎朝夕5時に聖なる井戸で素裸になり、家族や知人の分も願をかけて身を切るように冷たい水をかぶる。食事は地元で採れた白菜と大根、井戸の水で炊いた白米しか口にしない。
2023年は12月28日から執り行われた。初日の夜は堂内でふんどし姿になり、稲作を再現する田遊びを営む。雷雲を呼ぶ太鼓をたたき、雨乞いをしながらいろりを周回。それから騎馬戦のようにぶつかり合い、威勢よく「ヨイサア!」と声を出しながらもみ合うのだ。これは農耕馬による代かきを表すという。続いて男を担いでは畳に落とし、苗を植える所作。全員で田植え唄を唱和し、豊年を願いながら締めくくる。 2日目は、神様にささげる餅をつく。これもやはり裸だ。別室では、野菜を男女の営みに見立てた「ゴッツォ」というお供えを長老が作る。 最終日は午前3時から、いよいよ「山がけ」だ。全員が手ぬぐいで作った冠をかぶり、白装束にわらじ姿で羽山を登る。山頂の祠(ほこら)の前に立つと、神職の鈴の音が響き渡って心が清まる。世襲制の「ノリワラ」と呼ばれる託宣者に神が憑依(ひょうい)して、新年の天候や作況を教えてくれるのだ。 素朴な地域行事ながら、神と出会うために身を清める裸祭りの原点が息づいている。 ※祭りの日程は例年の予定日を表記した 写真=芳賀ライブラリー
【Profile】
芳賀 日向 国内外の祭りを追い続ける写真家。1956年生まれ。祭りや民俗芸能の写真と資料をアーカイブする「芳賀ライブラリー」代表。日本写真家協会会員、日本旅行作家協会会員、全日本郷土芸能協会会員。『週刊朝日百科 日本の祭り』(朝日新聞出版)シリーズ連載、『知れば知るほどおもしろい! 日本の祭り大図鑑』(PHP研究所)監修ほか著書多数。
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