【中国・ロシアの宇宙開発への勢い】弱まりつつある米国、日本のロケット打ち上げは10分の1ほど
海外へも基地を確保する中国
上記の記事は、ロシアの動きと共に中国の宇宙開発についても、その勢いの良さを強調している。過去数年間、中国は米国と肩を並べるほどに、一年間に衛星を宇宙空間に配備するロケットを年間40機も打ち上げている。年によっては米国を上回る数である。ロシアも30機ほど打ち上げているが、わが国は高々4機ほどに留まる。 地球の周りを既に1万を超える衛星が秒速8キロを超える速度で縦横に周回しており、広大無辺の空間といえども衝突の可能性が出始めている。米国は世界中に30地点余りの地上基地を設け、コンピューターを駆使して、それらの位置、速度、方向、重量などを把握し、衝突回避のために情報を提供している。無論、国防上の情報の収集もその目的である。 高速で移動する衛星と地上の間の通信を頻繁に行うには、地上の多くの地点に地上局を設置する必要がある。通信に限らず、測位航法、地球観測などいずれをとっても、精度の高いデータを収集・提供・確保するには、出来るだけ多くの地点に地上局を置く必要がある。地球上の多様な場所(極地、赤道近傍など)に拡散して数多くの地上局を設置するのが、衛星情報の正確性を高めるのに効率的だ。
中国も世界のさまざまな場所に基地を確保し始め、その数は30近くに達する。中でも中国がアルゼンチンに作った地上局は、その確保の仕方において象徴的である。 14年締結の中国アルゼンチン宇宙協力協定に基づき、周囲の200ヘクタールを50年間租借し、中国の労働法に従って中国人労働者が働き、固定資産税を含めたアルゼンチンのすべての税金が免除される。人民解放軍戦略支援軍の下にある中国衛星発射測控系統部が運営する。中国はリーマンショック後のアルゼンチン経済の疲弊を利用して借款と抱き合わせでこの基地を確保した。
希薄となる軍民の境
米ソが宇宙開発競争を始めた頃、衛星の8割は軍事目的だった。それだけに国家予算が傾斜配分されていた。それが宇宙開発を推し進めた。現在中国が急迫し、追い抜きつつあるのも、軍事目的であるために国家予算が流入しているからだ。 冷戦後は民間の衛星サービスが急速に拡大したため、軍事運用衛星の割合は2割前後に落ち、民間の衛星サービスが8割を占める。通信の秘匿装置が発達したため、軍も民間の衛星サービスを利用するようになった。 特に、地上の情勢把握のための衛星画像は有用である。別途秘匿装置を付けて広範囲の観測に活用できる。 軍事用と民生用の違いは、その制度、秘匿度、それらを高める技術にある。しかし一旦軍事利用分野で高まった技術はスピルオーバーして民生利用サービスの質を飛躍的に高め、それを利用できる企業群に比較優位を与える。宇宙は既に軍民の境界が希薄になっている。
岡崎研究所