「LINEマンガのバトル・アクションで2位!」戦場生まれ、医療現場育ち…非常識な環境で育った主人公が現代日本で“無双”する理由とは?【作者に聞く】
サイバーエージェントが運営する縦読み漫画スタジオ「STUDIO ZOON」から、新作縦読み漫画「BLACK SURGE」(ブラックサージ)が8月10日より連載開始。医師と兵士……戦場帰りの二つの顔を持つ男が、現代日本を震撼させる新作漫画について、原作・医療監修を務める津田彷徨さんにインタビューを行い、縦読みならではの「演出」や「表現」、作品に及ぼした影響について話を聞いた。 【漫画】本編を読む <漫画作品のあらすじ> 紛争地帯で治療を続ける天才医師、九条凪(くじょう なぎ)。 恩人である義父の治療のため、祖国日本へと帰国するが、義父は何者かの手により殺害されてしまう。その謎を明かすべく、凪は真相にメスを入れる――。 ■これまでの原作経験を一度リセットして執筆した ――作画の丸山貴之さんとのコラボレーションについての感想をお聞かせくだい。 【津田彷徨】泥臭い過去を抱えながらも、常にスタイリッシュに今を歩む主人公を描いて欲しい。そんな僕の希望を一歩どころか二歩三歩ほど上回る形で、この「BLACK SURGE」を丸山先生は描いてくださっており、深い感謝をいつも抱いております。実際、初めて第一話の作画を拝見させて頂いたときに、こんな素敵な作画をされる先生に自分の原作を扱って頂けるという喜びと、ここまでの素晴らしい絵を描いて頂く以上は絶対楽しんで頂ける原作にしなければというプレッシャーを覚えました。 特に原作者の視点としては、毎話作画に力負けしているのではないかという不安を覚えずにはいられないのですが、だからこそ毎話この素晴らしい作画に負けないものをと気持ちを新たにしながら書かせて頂いています。 ――Web縦読み漫画の原作を担当する上で、特に意識した点や工夫した点はありますか? 【津田彷徨】これまで漫画原作は月刊誌での連載経験しかありませんでした。ですので、約40ページ超の漫画で原作として1話を約6000~8000文字で書かせて頂くという経験はあるものの、今回の「BLACK SURGE」に関しては1話あたり約1000~2000文字で描く必要がありました。これはもちろん媒体の違いの結果ですが、1話に6000文字費やすことができれば1話の中で起承転結を入れたり、細やかな小ネタをいくつか忍ばせたりも非常に容易ですが、流石に今回の媒体ではこれまでの原作経験を一度リセット し書かせて頂く形となりました。 むしろ私自身は小説投稿サイト出身なのですが、WEB小説を毎回1話1話描いていく感覚で執筆させて頂いた気がします。小説家になろうなどのWEB小説は、10年ほど前はスマホではなくPCで読まれていた割合が高かったこともあり、1話あたり3000~7000文字くらいがある意味では標準的な分量といえたと思います。しかし近年はWEB小説もスマホでの読書に最適な1000~3000文字が主体となっており、そちらの分量や構成がより縦読み漫画の執筆感覚に近く、本当に役に立ったと感じました。 ――縦読み形式が作品のストーリーテリングにどのような影響を与えましたか? 【津田彷徨】主人公の目を通したストーリー構築の重要性を改めて感じています。もともと私は一部の作品を除き三人称で小説を書くケースが多かったのですが、縦読み漫画に触れていく中で、縦読み漫画は小説における一人称なのではないかという意識を強く感じました。 もちろん例外も多く存在するのですが、主人公の目を通して世界や物語を描いていくことの重要性を、改めて縦読み漫画に触れることで学ばせて頂いたと個人的には感じております。きっとこの「BLACK SURGE」を書かせて頂いた今なら、以前よりも一人称の小説をもう少しうまく書ける気がしますので、その意味でも縦読み漫画には新たな意欲と学びを頂いた思いです。 ■スワイプで物語が進行するのは、縦読みならではの「演出」や「表現」のコアの一つ ――読者にとって縦読み形式の魅力は何だとお考えですか? 【津田彷徨】プラットフォームが作品に及ぼす影響は、歴史上決して無視できないものだと考えています。その意味において、iOSやAndroidなどのモバイルプラットフォームに最適化され、最大の出力を出すことができる漫画形式であることは、やはり非常に魅力的なのではないかと思っています。特に現代のWEB小説や漫画は、以前以上にゲームや映像メディアなど他のさまざまなエンタメ体験と読者の方の時間を奪い合っている状態であり、それらの少なからずはスマートフォンというメディアを通してのものとなっています。 だからこそその皆さんの手にあるモバイルプラットフォームに最適化した読書体験は、もちろん作品自体の内容や質にもよるとは思いますが、決して他メディアに劣るものではなく素敵な時間をスマートフォンとともに過ごして頂けるものではないかと考えています。 ――縦読み形式だからこそできた表現や演出について教えてください。 【津田彷徨】視線移動が常に上から下に向かう形ですので、物語のテンポ感がスマートフォンのスワイプに噛み合った際の気持ちよさがあると考えています。特にアクションシーンでは、ある意味に置いてシームレスな読書体験を読者の方が自分自身の指でスワイプし演出頂く形になると感じています。たとえばWEB小説は従来の小説と異なる点として、これは読者の方と作家との距離感が近く、小説の感想欄などを通して双方向的なやり取りをしながら物語が紡がれるケースが存在し、それがある種特別な読書体験になっている部分があると考えています。 その意味において、縦読み形式の漫画においては読者の方にスワイプという行為で物語の演出の一部分を担って頂くという見方もできると考えており、これまでとは異なった特別な読書体験をして頂けると思っております。だからこそ演出家を兼ねて頂く読者の方の指のスワイプとともに物語が進行していくことが、まさにまさに縦読みならではの演出や表現のコアの一つと感じており、その部分を大事にさせていただきながら本作を描かせて頂きました。ぜひ本作「ブラックサージBLACK SURGE」を読者として、そして作品の演出家として楽しんでくださいませ! 「BLACK SURGE」(C)津田 彷徨/丸山 貴之/STUDIO ZOON