動き始めた“トランプおろし” 一線越えた失言で支持率急落
もはやバラバラのトランプ陣営と共和党
トランプ候補の発言やパフォーマンスに嫌悪感を抱く共和党関係者は以前から少なくなかったものの、戦死米兵の家族を侮辱する発言を境にトランプ候補の支持率は急落し、共和党内部でも「もうこれ以上トランプには付き合いきれない」という本音が見え隠れする。米政治メディア「ポリティコ」は5日、大票田や激戦区として知られる11の州で、共和党関係者に聞き取り調査を実施。運動員から戦略スタッフまで様々な肩書の共和党員に対し、「トランプ氏に大統領選挙から撤退してほしいか」と質問したところ、約7割がトランプ氏の撤退を望んでいることが判明した。 ニュース専門放送局CNBCのジョン・ハーウッド記者は3日、トランプ陣営で選対本部長を務めるポール・マナフォート氏に近い人物の話として、「マナフォートは(政策や発言等をめぐってトランプ氏と)議論をやめ、選挙スタッフは自暴自棄に」とツイートした。トランプ候補の発言に振り回される選対スタッフは疲労困憊で、6月に解任されたコーリー・ルワンドウスキ選対本部長の後任としてトランプ陣営の指揮を執っていたマナフォート氏もさじを投げた現状をハーウッド記者はツイッターで示唆したが、トランプ陣営はツイートの内容について否定している。 同じ日、ニューヨークタイムズは共和党の上層部がトランプ候補の発言やパフォーマンスが党に壊滅的なダメージを与える危険があると判断し、トランプ候補に自ら大統領選からの撤退を決断させるために動き始めたと伝えている。NBCニュースは具体的な名前をあげ、ラインス・プリーバス共和党全国委員長や、トランプ候補に近いとされる保守派の重鎮ニュート・ギングリッジ氏、ルドルフ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長らが「調停役」として、トランプ候補と交渉を行うべきだという声が共和党内部から相次いで出ていると伝えている。 ABCニュースは3日、トランプ候補が撤退した場合の今後のシナリオについて報じている。党全国大会で指名を受諾した大統領候補を強制的に大統領選挙から撤退させることはできないため、あくまでもトランプ氏が「自発的」に撤退することが最低条件なのだが、説得工作によってトランプ候補の撤退がより現実的な話となる場合、代わりの候補者の擁立や11月までの選挙活動を考えると9月初旬までの交代が求められるとABCニュースは伝えている。この場合、次の候補者は 共和党全国委員会で代表権を持つ168人によって決められる。 6月のルワンドウスキ前選対本部長の解任からまだ2カ月も経っていないが、トランプ陣営の士気の低下は複数の米メディアによって連日伝えられており、自身の発言によって1週間足らずで支持率が急落したトランプが大統領選に勝利するのは不可能だという声は日増しに強まっている。共和党内部からも不支持を表明する声が相次ぐなか、トランプ自身が勝算の低さを認識し、ある程度きれいな形で撤退を表明することが共和党にとってはベストシナリオとなる。現時点では、共和党が11月の大統領選挙で勝利する可能性は極めて低いだろう。仮に選挙で勝利できなくても、トランプに代わる人物を当て馬にし、党にとってのダメージを可能な限り軽減させることが、今の共和党にとっては大統領選挙以上にプライオリティの高い問題になってしまったようだ。
------------------------------ ■仲野博文(なかのひろふみ) ジャーナリスト。1975年生まれ。アメリカの大学院でジャーナリズムを学んでいた2001年に同時多発テロを経験し、卒業後そのまま現地で報道の仕事に就く。10年近い海外滞在経験を活かして、欧米を中心とする海外ニュースの取材や解説を行う。ウェブサイト