動き始めた“トランプおろし” 一線越えた失言で支持率急落
戦死米兵へのコメントに党派を超えて批判の声
先月25日から4日間、米東部フィラデルフィアで開催された民主党全国大会では、2004年6月にイラクで戦死したパキスタン系アメリカ人のフマユン・カーン陸軍大尉の両親がスピーチを行った。パキスタン生まれのカーン夫妻はアメリカ移住の資金をためるために、アラブ首長国連邦のドバイで必死に働き(カーン大尉はドバイで誕生している)、父のキズルさんは渡米後にハーバード大学のロースクールで学位を取得して弁護士になった苦労人だ。カーン大尉はバージニア大学で学生生活を送っていた際に米軍の予備役に登録。父と同じ弁護士を目指していたが、米陸軍兵士として任務に就いていたイラクで、車を使った自爆テロに巻き込まれ死亡している。 カーン夫妻の演説は、様々なバックグラウンドを持つ人々がアメリカという国を支えているというクリントン陣営のメッセージで、同時にこれまでの演説で国内におけるイスラム教徒への偏見を助長させてきたトランプ陣営との国家観の違いを明確にしたものであった。キズルさんは壇上でイスラム教徒の入国禁止を示唆するトランプ氏を批判したが、これに対してトランプ氏はキズルさんの演説は「クリントン陣営が用意した原稿だ」と応戦し、「妻が一言も語らないのは、そういった場所で思ったことを口にしてはいけないという文化が影響しているからだ」ともコメントした。カーン大尉の母ガザラさんは、7月31日のワシントンポスト紙に寄稿し、「壇上で一言も発さなかったのは、息子の写真を目にした時に悲しさから言葉が出なくなったからだ」と、トランプ候補の発言に反論した。 クリントン陣営がイスラム教徒を含む多文化に寛容な社会づくりを目指すことをアピールしたのは、今回が初めてではない。昨年12月、トランプ候補は「イスラム教徒のアメリカ入国に対し、一定の禁止期間を設けるべきだ」と発言。1週間後にミネソタ大学で演説を行ったクリントン候補は、聴衆に向かって「イスラム教徒のみなさん、私はあなた方と同じアメリカの同胞であることを誇りに思っています」と語りかけ、トランプ陣営との違いを明確化させている。クリントン陣営の関係者は4日、CNNの取材に対し、「(カーン夫妻の登壇が)有権者に対してインパクトを与えることは確信していたが、これほど大きな形で、かつ早い時期に結果が出るとは予想していなかった」と本音を漏らしている。 トランプ候補から副代表候補に指名されたインディアナ州のペンス知事は、「トランプ氏もカーン氏はアメリカの英雄だと思っています」とコメントし、火消しに努めた。しかし、戦死したカーン大尉の両親の演説に否定的な見解を示したトランプ氏を、アメリカではタブーとされる戦没者や退役軍人に対する冒とく・批判と受け止めた有権者は多く、目に見える形でトランプ人気は急落していった。 加えて、以前からトランプ候補の言動を批判してきた共和党のベテラン議員らも、今がチャンスとばかりにトランプ批判を展開。過去に大統領選挙に出馬し、ベトナム戦争では捕虜の経験もある、共和党の重鎮マケイン上院議員は「トランプ氏の発言は共和党の価値観を表すものではない」と語り、トランプ候補を強い口調で非難している。しかし、トランプ候補は謝罪や発言の撤回を拒否。逆にツイッター上で、「カーン夫妻は私に対して悪意に満ちた攻撃を行っている」と主張し、火に油を注ぐ状況を自ら作り出している。