動き始めた“トランプおろし” 一線越えた失言で支持率急落
11月に本投票が行われる米大統領選挙。民主党のヒラリー・クリントン候補と共和党のドナルド・トランプ候補との対決は、トランプ候補の度重なる失言などが原因となって、世論調査ではクリントン候補がトランプ候補との差を広げる形でリードを続けている。複数の米メディアは今月に入ってから、トランプ候補が大統領選挙から撤退する可能性について言及。すでに共和党内部では、「トランプ撤退」を見据えて、後任探しがスタートしているとの報道もある。 【写真】「トランプ米大統領」への7つの課題と戦略は?
トランプ、クリントン氏に投票したのは僅か9%
民主党のクリントン候補と共和党のトランプ候補が次期大統領の座を争う今年の大統領選挙では、それぞれの候補が異なる政策を掲げているものの、人気のなさという点は党の違いを超えた共通の問題だ。ニューヨークタイムズ紙は1日、これまでの予備選でトランプとクリントンに投票したのが、全国民の1割にも満たなかったと伝えている。約3億2000万人が暮らすアメリカで、有権者は約2億3000万人いるが、予備選挙で投票したアメリカ人は約6000万人で、予備選挙で投票した有権者の約半数はクリントンとトランプ以外の候補者に投票していた。投票率や、代議員の数を競うシステム、(全ての州ではないが)勝者総取りというルールの影響もあり、クリントンとトランプの両候補はそれらの恩恵を受けたことになるが、両者とも絶対的な人気を持つ候補ではない。 統計学者のネイト・シルバー氏は2008年の大統領選挙で、様々なデータを分析して、大統領選挙の結果を事前予測し、インディアナ州以外の49州と首都ワシントンにおける勝者を正確に言い当てた。2012年の大統領選挙では、ギャラップなどの大手調査会社数社がオバマ大統領の対抗馬であった共和党のミット・ロムニー氏が若干優勢とする調査結果を発表したのに対し、シルバー氏はオバマ大統領が圧勝する形で再選するだろうと予測。実際には11月の本選で必要な「過半数」をこえる332人の選挙人獲得でオバマ大統領は再選を果たしている。また、2012年の選挙では、シルバー氏はついにアメリカ50州全てと首都ワシントンにおける勝敗を全て正確に予測したことで、大きな注目を浴びた。 シルバー氏は「ファイブ・サーティー・エイト」という、統計学専門ブログを運営し、その中でスポーツから政治、事件まで様々な分野で統計学を使った予想を打ち出している。7月からは同ブログ内で、各調査会社が出した支持率のデータや各候補の言動、メディアによる取り上げられ方などをアップデートしながら、連日統計学を使ってシミュレートし、クリントンとトランプがそれぞれ大統領に選ばれる確率を連日発表している。すでに2万回以上のシミュレーションが行われているが、トランプが大統領になる確率は8月に入ってから急速に低下し、逆にクリントンが選ばれる確率が上昇している。 「ファイブ・サーティー・エイト」のシミュレーションが公開された7月8日の時点で、クリントンが大統領に選ばれる確率は66.4%で、トランプ大統領誕生の確率は33.6パーセントであった。民主党全国大会のメールがハッキングされ、その内容がウィキリークスで公開され、民主党関係者が予備選挙でクリントン候補をバーニー・サンダース氏にどうやって勝たせるべきか協議していた事実が明るみになると、クリントン候補の支持率は急落し始める。7月30日には僅差ではあるが、トランプ候補が大統領就任の可能性で初めてクリントン候補を上回った(トランプ候補が50.1パーセント)。しかし、そこから間もなくしてトランプ候補の支持率は凋落の一途を辿り、8月7日の時点でクリントン候補が大統領に選ばれる可能性は81.9パーセント。トランプ候補は18.1パーセントという大差となった。 ほんの10日前まで、クリントン候補と接戦を演じていたトランプ候補だが、ある意味で自信の大きな武器となっていた「舌禍」が、先月末の戦死米兵へのコメントでは諸刃の剣となって、自らを大きく切りつけることになったのだ。